第4話 積もる思いと クスティの雪は
「雲雀が鳴いていますねぇ…田舎を思い出します」
3人で平らな石の上に座って、足だけ湯に入れて空を眺める。
ぽつりとそう言ったエルザさんはさすがに筋肉質だ。無駄がない綺麗な裸体だなあ。
「あれは恋人に、僕はここだよ!って鳴いているんでしょう?」
ラウラさんがやはり空に舞い上がっている雲雀を眺めながら、エルザさんに聞いている。ラウラさんは女性らしい柔らかそうな体だ。
「そうです。僕はこんなに素敵でいい男なんだ。お嫁においで!ってメスを呼んでるわけなんですよ。わははっ。田舎の爺さんが教えてくれました」
そんなことを言いながら、二人で笑っている。
クロエも両腕を後ろについて、空を見上げる。
お嫁においで、って鳴いているのか。…いいなあ…。
雲雀が鳴いている空は青くて高い。雪を抱いた高い山も見える。残雪がウサギみたいに見える。
「クスティは北にありますのでね、まだ山に雪があるでしょう?あの雪がウサギの形になったら、皆、畑仕事を始めるんです。耕して、種をまいて…。暦みたいなもんですね」
「雪のウサギが春を教えてくれるなんて、なんかいいですね?」
「そうでしょう?このあたりも冬は雪が降りますのでね、雪見風呂もいいもんですよ?」
クロエは二人が楽しそうに話しているのをぼーっと聞いていた。
私は16歳になるというのに、貧相な体だ。控えめな胸。薄い腹。
…春か。もうすぐエアハルトのお誕生日だな。
今年は何も用意できないうちにクスティに来てしまった。
あ…もういらないのか。
変なもの贈ったら、婚約者のローザリンデ様に悪いものね。
ローザリンデ様の深紅のドレスの胸元から、こぼれそうな豊かな胸を思い出して…にこやかに笑うエアハルトの顔…また胸がぎゅっと痛む。
いかんな…また泣きそうだ。
顔を限界まで上に向けてみる。早いところ…医者に相談してみよう。心臓の病かもしれない。
そのまま倒れこんで…クロエは持ってきたガーゼのタオルを引き寄せて、そっと自分の顔にあげた。
高いところから、雲雀の鳴き声がする。
*****
執務室の応対用の部屋に、物凄い香水の匂いがして…今日も用事もないのにローザリンデ嬢が来ているのがわかる。あの舞踏会以来、これで3度目ぐらいか。しれっとした顔で、彼女の侍従が控えている。
僕の侍従が彼女にお茶を出すよう言われて、お茶を出した。
(…おい表情に出ているぞ?…本当に嫌そうな顔だな。)
「今日は?何か御用でしょうか?」
エアハルトがしかたなくそう切り出すと、悪びれもせずローザリンデ嬢が紅茶のカップを置いて…
「クロエ嬢が急に来なくなったんでしょう?殿下がお忙しいかと思いまして、お手伝いに上がった次第ですわ」
…ひらひらのドレスで?何を手伝うつもりなんだろうか?そもそも、手伝ってほしいとも思わないが?
「あの方、婚約者候補を辞退なさったんでしょう?秋には秘書官として就職すると噂に聞きましたわ!身の程をわきまえた、いい選択ですわよね。まあ、噂ですけど。」
口元に笑みを浮かべて、パチパチとせわしなく瞬きを繰り返して僕を見ているローザリンデ嬢は今日も化粧が濃い。近くにいるとむせかえるほどの香水だし。
…その噂を一生懸命広げているのは君たち親子だと知っているけど?
「せっかくの申し出ですが、クロエが事務方の体制を整えてくれておりましてね?誰か一人いないと回らないような脆弱な勤務体制ではないんですよ。」
…控えている僕の侍従が僕の説明にこくこく頷く。
「貴女は今のところ僕の婚約者候補には違いないが…執務の邪魔になるので必要がある面談は申請書を出してください。僕はこれから公務があるので、お茶を飲んだらお帰り下さいね」
僕が営業用の張り付き笑顔を向けると、ローザリンデ嬢が顔を赤らめた。
それが、突然押し掛けてしまった恥ずかしさからなのか…ただ僕が笑ったからなのかはよくわからない。
侍従と控えていた護衛騎士に目配せして、応対室を後にする。




