第1話 旅は道連れ。
名前
年齢
ここまではサラサラと書けた。
好きな食べ物
得意なこと
好きな動物
好きな花
好きな色
好きな本
好きな景色
自分の性格
特技
今の体調
気になること
クスティ国に来て、温泉に入るにあたって、簡単な問診票の記入があった。
たいした内容ではない。が、クロエのペンが止まってしまった。
「うーーーーーん」
「まあ、滞在中の参考にするだけなので、さらっと書いていただいて大丈夫ですよ?」
問診票を差し出したラウラさんという女性が、にこやかに微笑む。
たしかにたいした内容じゃない。さらさらっと書けばいい。そう思ったが、どうしても書き進められなかった。
「…大丈夫ですよ。好きなものが思いつかないんだったら、この滞在中に一緒に探しましょうね」
ラウラさんの優しい一言に、どうしたことか涙がこぼれそうになって…クロエは気を取り直してにこりと笑う。
「そうですね。よろしくお願いします」
***
先日の舞踏会で…両陛下のダンスの後にエアハルトが婚約者候補のローザリンデ様の手を取ってセンターに出た。深紅のバラのような公爵家のローザリンデ様と踊るエアハルトを、クロエは人垣の向こうからぼーっと眺めていた。
流れるような金髪にブルーの瞳のローザリンデ様はにこやかに微笑みながらエアハルトと見つめ合って踊っている。ほおっ、と会場からため息が漏れる。お似合いね、という声がする。人垣ができてみんなが二人のダンスに見とれている。
うちの国の王太子殿下であるエアハルトは銀色の髪に、淡い紫の瞳。二人はまるでおとぎ話の挿絵の様だった。
…本当に素敵だわ…。
まだその一曲が終わらないうちに、父と兄に話をして…クロエは走って会場を後にした。
お母様や侍女たちが可愛らしく着飾ってくれた。それでも自分の姿が、妙にみじめに思えた。ありきたりのこげ茶の髪色に、緑色の瞳。背も小さいし、華やかさもない。なぜ並び立てると思っていたんだろうか。笑えるな。そう思いながら帰路に就いた。
屋敷に帰ると、お留守番だったおばあ様が驚いて出迎えてくれた。
「あらまあ、随分早かったじゃないの?クロエ」
「……」
「上手に殿下と踊れた?」
「……おばあ様?私やはり、殿下の婚約者候補を辞退することにしました。」
「そう?」
「最初から無理だったんです。私、事務官の登用試験に合格したので、秋からは事務官として…殿下のお役に立ちたいと思います」
「そう」
「あははっ。身の程を知りました。いい勉強になりました」
クロエはにぱっと笑って、頭を掻いてみる。
「…そう。じゃあ、明日から私、クスティに湯治に行く予定なんだけど、クロエも一緒に行きましょうか?」
おばあ様は大して深くも聞かずに、旅に誘ってくださった。
エアハルトが私に付けた女性騎士のエルザさんが、部屋の隅で軽いため息をつく。
「エルザさんも、もうお帰りになっていいですよ?私もう、婚約者候補じゃなくなるので」
私がそう言うと、エルザさんが姿勢を正して答えた。
「いえ。私はエアハルト殿下に命じられてクロエ様付きになっておりますので、クスティだろうがどこだろうが、ご同行させていただきますよ?」
「じゃあ決まりね?旅は道連れ、って言いますものね?」
そう言って、おばあ様が楽しそうに笑った。
こうして翌朝、私たちはお隣の国、クスティ国目指して旅に出た。




