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この迷い猫は、あざとく笑って俺を惑わす  作者: サハラ


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9/26

「嘘」は潤滑油、そして私の護身術

途中から視点が変わります。

少しでも楽しんでもらえると嬉しいです。


昨日、ようやく辿り着いた最初の街。


本来の約束なら、この街に着いた時点でガナッシュとの旅は終わるはずだった。けれど彼の好意で身の回りのものを買ってもらい、宿にも泊めてもらえた。宿を出たら、ここでお別れかもしれない。ヤバい。今の私が一人で放り出されたら、三日で路地裏の塵になるか、もっと悪い末路を辿るかもしれない。


昨日街を観察した感じこの世界は、力こそ正義だ。(どこの世紀末よ)ただ、だからこそ、腕力のない私は「知恵」と「愛嬌」を武器にするしかない。


(……この『最強の盾』、絶対に手放してなるものか)


翌日の朝日が差し込む宿の狭い部屋で、荷造りをしながら私は、わざと俯いて顔を隠し、消え入りそうな小さな溜息を吐いた。


「……どうした、リア。……顔色が悪いな。体調でも崩したか?」


先に準備を終えたガナッシュが、低い声で尋ねてくる。

私は視線を伏せたまま、力なく首を振った。


「……いえ。ただ、今日でお別れなんだなって思ったら、少しだけ、怖くなっちゃって。……でも大丈夫です! 兄貴に教えてもらったこと、忘れませんから」


私はギュッと自分の服の裾を握りしめ、震える指先を見せた。これ、実はただの演技なんだけど、彼には「絶望に震える仔猫」に見えたはず。

すると案の定、ガナッシュの動きがピタリと止まった。


「……お前、本気で言ってるのか? 身寄りもない、そんなひょろい身体で、一人で食っていけると思ってんのか」


「それは……頑張ります。計算も読み書きもできるし(これは昨日の街で確認済み)、どこかの商会にでも潜り込んで、なんとかやってみます。……悪い大人に騙されても、兄貴がくれたこの服だけは、絶対に守りますから……」


わざとらしい。自分でもそう思う。けれど、ガナッシュのような武骨なタイプには、この「健気な弱者」という毒が一番よく効く。私なら一人でも稼げる自信はある。でも、私が欲しいのは「金」じゃなくて、この強くて不器用な「男」の隣という特等席なのだ。


案の定、彼は乱暴に頭を掻き毟り、唸るような声を上げた。


「……っ、クソッ! 分かった、もういい!」


ガナッシュは私の肩をガシッと掴み、顔を真っ赤にしながら叫んだ。


「予定変更だ!知識があっても、腕っぷしは素人同然だ。街には字が読めるガキをカモにする、魔物よりタチの悪い野郎が山ほどいるんだ。そんな状態で放り出せるわけねぇだろ!お前が……そう、俺が認める『一人前の男』になるまでだ。それまでは、俺が側にいて、全部叩き込んでやる。……文句ねぇな!?」


(――ミッション・コンプリート!)


「一人前の男」というフレーズ。基準は彼のさじ加減一つだ。そんなの、実質的に「ずっと側にいろ」と言っているようなものじゃない。


(……ごめんね、ガナッシュ。私、あなたが思うような『素直な弟分』じゃないの。でも、あなたが私を離さないって決めたんだから、最後まで責任取ってもらうわよ?)


「……兄貴。……はい! 私、これからも兄貴についていきます! 一生懸命修行して、いつか兄貴みたいなかっこいい男になります!」


パァッ、と花が咲くような笑顔を向ける。


満面の笑みを向けると、ガナッシュはいたたまれなくなったのか、荒々しく私の頭を撫でてから、くるりと背を向け大股で部屋の外へと歩き出した。


「……フン、そうと決まればさっさと行くぞ。まずは朝飯だ」









森を抜けて街に着くまでの同行。それが、俺たちが交わした最初の「契約」だ。

昨日、この街の門をくぐった時点で、その契約は果たされた。ただ俺はそこで別れずに当たり前のようにリアの世話を焼き、宿にまで同行させた。


翌朝、リアから別れを切り出されるまではこれからも一緒に居るものだと無意識に思い込んでいたんだ。

アイツを引き留めようと色々言ったが自分でも、めちゃくちゃな理屈だとは分かっていた。

文字が読めるなら、力仕事なんてしなくていい。安全な場所で働ける。

だが、俺の心臓は「こいつを一人にするな」と、狂ったように警鐘を鳴らし続けていた。

逃がしたくない。気付けばその一心で、脳が焼き切れるほど必死に「理由」を探していた。


「一人前の男になるまで」

それは、俺が望む限り永遠に続くかもしれない、卑怯で強引な「期間延長」の宣告だった。


一瞬の静寂。リアが目を丸くして俺を見つめる。


リアが、パァッ、と花が咲くような笑顔を見せた。


その瞬間、全身の力が抜けるような強烈な「安堵」が俺を襲った。

良かった。まだ、こいつを失わずに済む。

俺は真っ赤になった顔を隠すように、リアの頭を乱暴にかき回した。手のひらに伝わる柔らかい髪の感触が、俺をこれ以上ないほど安心させる。


背中を向けて大股で部屋を出る。

心臓の鼓動がまだうるさい。



俺は最低な男だ。あいつを「守る」という大義名分を盾にして、自分の側に縛り付けたのだから。

だが、その罪悪感すら、あいつを連れて歩ける喜びには遠く及ばなかった。

【リアの工作ログ】

• ミッション: 契約の延長(永続化)。

• 工作内容: 「一人で頑張る」という健気な嘘。

• 収穫: ガナッシュの口から「一人前になるまで」という無期限の保護を言わせることに成功。

• 感想: 私、案外悪い女かもしれない。でも、この世界の攻略にはこれくらい必要よね?


【ガナッシュの精神ログ】

• 精神状態: 絶望の淵からの生還。

• 物理的反応: 肩を掴む手が震えるほどパニック。

• ガナッシュの理性度: 90%(「こいつは賢い。だからこそ俺が守らねば変な奴に利用される」という、独占欲を正義感でコーティング中)

• 収穫: 守るべき「弟分(仮)」の継続雇用に成功。

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