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石畳の喧騒と、強面の冒険者

楽しんでもらえると嬉しいです。

やっと街に着きました。

森の湿った土の匂いが消え、代わりに乾いた石埃と、何かが焼ける香ばしい匂いが鼻を突いた。

目の前に現れた巨大な石造りの門。そこから続く街並みを目にした瞬間、私は危うく「文明万歳!」と叫びそうになった。新宿の摩天楼に比べれば数階建ての石造りなんて可愛いものだけれど、数日間の野宿で削られた私の現代人メンタルには、この喧騒さえ聖歌のように聞こえる。


「おい、リア。口が開いてるぞ。田舎もん丸出しだ」


頭上から、お腹に響く低い声が降ってくる。

私は慌てて口を閉じ、隣の「動く岩山」を見上げた。

改めて見ても、やっぱりこの人は「強面」の権化だ。

鋭く吊り上がった眉、眉間に深く刻まれた消えない皺。無造作に伸びた無精髭と、一度睨まれれば蛇に睨まれた蛙のように動けなくなる野獣のような眼光。海外の強面俳優と言った感じかな?日本人からしたら彫りの深さが羨ましい。営業職をやってたら強面位で遠慮してたら新規開拓なんかやってられない。ただ日本では感じる事のない威圧感は凄いけど。背負った大剣の重みも相まって、彼が歩くだけで、雑踏にモーセの十戒のごとく「道」ができる。


(……うん、便利。ガナッシュの後ろを歩いているだけで、誰にもぶつからないし、客引きも蜘蛛の子を散らすように逃げていくわ)


「……だって、兄貴。こんなに大きい街、初めて見ました」


私は彼を見上げ、わざとらしく目を輝かせた。

ガナッシュは鼻で笑い、無骨な手で私の頭を乱暴に撫で回す。その手は、この数日で私の「定位置」になってしまった。


「ふん、ここはまだ中規模の交易都市だ。王都に行けば腰を抜かすんじゃねぇか?」


私は「もう、髪が乱れますよ」とあざとく膨れて見せながら、周囲を観察し始めた。これが、見知らぬ土地で「世渡り上手」を自称する私の鉄則だ。


――第一の観察:経済と格差

石畳を行き交う荷馬車。引いているのは馬だけでなく、巨大なトカゲのような爬虫類系の魔獣もいる。

(通貨は銅・銀・金。ガナッシュがさっき門兵に払ったのは銅貨。あのパン、一個で銅貨二枚……意外と物価は高いかも)


――第二の観察:治安とガナッシュの影響力

行き交う人々を「鑑定」する。武装した冒険者は多いけれど、ガナッシュさんのような圧倒的な「威圧感」を持つ男は他にいない。

すれ違う衛兵でさえ、ガナッシュの顔を見た瞬間に背筋を伸ばし、目を逸らして通り過ぎる。いいのかそれで。


(一般市民の警戒レベルはマックスね。でも、この人の隣にいれば、変なチンピラに絡まれる心配はゼロ。……最強のボディーガードだわ、本当に)


「おい、ぼさっとすんな。馬車に轢かれるぞ」


ガナッシュの大きな手が私の肩を掴み、グイと自分の方へ引き寄せた。

分厚い胸板が背中に当たり、彼の体温が伝わってくる。野性味溢れる革鎧の匂いと、微かに混じる鉄錆の香り。


「……兄貴、あの看板。羊の絵が描いてありますよ。宿屋ですか?」


「ああ。あそこはメシが旨いと評判だ。……リア、お前、腹減ってるだろ。顔に書いてあるぞ」


「えへへ、バレちゃいました?」


私は彼の手をぎゅっと握った。

周囲の人々が「あんな恐ろしい男の手を握るなんて、あの少年は命知らずか?」という驚愕の視線を送ってくるのがわかる。けれど、ガナッシュは振り払うどころか、困ったように視線を彷徨わせ、最後には諦めたように私の手を大きな掌で包み込んだ。


――第三の観察:ガナッシュの「葛藤」

ふとガナッシュの横顔を盗み見る。

周囲を威圧する凶悪なまでの強面。けれど、私の手が彼に触れた瞬間、喉仏がごくりと動いたのを私は見逃さなかった。眉間の皺がより一層深くなる。それは怒りではなく、彼が自身の「内なるざわつき」と戦っている証拠だ。


(……ふふん。自分を『男に惹かれる変態』だと思い込んで苦悩してる顔。元の世界とは違って同性愛は一般的じゃなさそうだし。見かけによらず、中身は意外と純情よね)


「……腹が減ってるのはわかったが、まずはその格好をどうにかしろ」


ガナッシュが、私の服を上から下まで眺めて舌打ちをした。

今の私は、彼から借りたオーバーサイズの革ジャケットを羽織っている。着替えなんか持ってないし、これはしょうがないね。夜の森は冷えるんだよ。


(このジャケット、別の意味でも本当に助かってる。厚手の革が体のラインを完全に隠し、短髪と相まって、ガラスに映る私はどこからどう見ても『普通の街の少年』だわ)


「え? ……変、でしたか? 兄貴のジャケット、すごくあったかいですけど」


「変じゃねぇが、……そんなブカブカじゃ動きづれぇだろ。森じゃしょうがなかったが、街に着いたんだ。……ほら、こっちだ」


ガナッシュは私の手を引いたまま、宿屋とは反対方向へ歩き出した。





連れてこられたのは、庶民向けの既製服を扱う店だった。


「……兄貴? ここ、服屋さんですよね。……まさか、私に?」


私はわざとらしく目を丸くして、彼を見上げた。


(……きたきた! やっぱりこの人、ガサツに見えて面倒見が良い。……あざとく遠慮しておねだりするチャンス!)


「当たり前だろ。……お前みたいなガリガリのガキに、俺のジャケットじゃ重すぎる。……おい、店主。こいつに合う丈夫なジャケットとシャツ、それからズボンを一揃い出せ。丈夫なやつだぞ」


ガナッシュが低い声で凄むと、店の主人は一瞬怯えたが、すぐに「へい! 威勢のいい旦那だ。そちらは弟ですかい?」と愛想笑いを浮かべた。


「……え、あの、兄貴! ダメです、悪いですよ! 私、兄貴のジャケットで十分ですもん!」


私は慌てて彼の手を掴み、ブンブンと首を振った。

「見せかけの遠慮」という高等テクニック。ここで一度断ることで、相手の「兄貴肌」をさらに刺激するのだ。


「悪いと思うなら、……もっとメシを食って一人前になれ。俺が拾ったガキが、ボロボロの格好で俺の隣を歩くのは俺のツラが汚れる。……ほら、さっさと着替えてこい」


ガナッシュは私の遠慮を「生意気だ」と切り捨てながらも、その瞳にはどこか「世話を焼くことを楽しんでいる」ような色が滲んでいた。


(ふふん、計算通り。……この人、私のこういう健気な(フリをした)態度に弱いんだから)


「……じゃあ、……一揃いだけ、お借りします。……いつか必ず、兄貴に恩返ししますから!」


私は目を潤ませ、彼に向かってペコリと頭を下げた。


「……兄貴、大好き!」


最後に一度だけ、振り返って彼に最高の笑顔を向けた。

ガナッシュが「うわっ、やめろ、人目があるだろ!」と、元が強面なのでもはや茹で上がった鬼のような顔をして叫ぶ。


(……さあ、異世界サバイバル、第一段階クリアね)


服屋で小物も含めた会計(ガナッシュが。お金ないし、これはしょうがないね)と着替えを済ませる。


私たちは、新しい服を手に入れ、夕暮れに染まり始めた石畳の街並みを歩いていった。

私の好奇心は、いつの間にかこの街の秘密を探ることよりも、この不器用で強面な冒険者様がいつ「降参」の白旗を揚げるか、その一点に注がれ始めていた。まぁバレると詰むんだけどね。




いよいよ待ちに待った(ただ焼いただけの肉はもうイヤだ。塩味以外の)食事だ。私は心持ちわくわくしながら宿屋兼食堂『金の羊亭』の扉を開けた瞬間、店内の喧騒がピタリと止まった。

理由は明白。私の後ろに立つ、背負った大剣よりも凶悪な面構えをしたガナッシュ兄貴だ。


「……おい、リア。空いてる席はあるか」


地響きのような低音に、近くのテーブルに座っていた冒険者たちが、ビクリと肩を跳ねさせて視線を逸らした。


(よしよし、絶好のシチュエーション。ここからが私の腕の見せ所ね)


「兄貴、あっちの奥の席が空いてますよ。ほら、行きましょう!」


私はわざとらしく明るい声を出し、彼の太い腕を両手でギュッと抱きしめるようにして引いた。周囲の「あんな化け物みたいな男に、あの可愛い少年が……!」という驚愕の視線が突き刺さる。

窓から差し込む夕日が、私の顔を横から照らす。

自分で言うのもなんだけど、今の私は「擬態」が完璧だ。川で汚れを落とし化粧をしてない私の顔は、中性的という言葉がこれ以上なくしっくりくる。

短く切り揃えられた黒髪が首筋の白さを際立たせ、陶器のような肌は、男にしては整いすぎている。けれど、ガナッシュから先程買い与えられた上着が、華奢な肩幅や体のラインを完全に覆い隠し、見る者に「育ちの良さそうな美少年」という誤認を抱かせる。


「え、ええと……ご注文は……?」


「肉だ。それと酒」


ガナッシュがぶっきらぼうに答えるだけで、女の子の顔から血の気が引いていく。……あ、これ、完全に泣く寸前だ。


「お姉さん、すみません! 兄貴、お腹が空いてて機嫌が悪いだけなんです。本当はすっごく優しいんですよ?」


私は身を乗り出して、女の子にいたずらっぽく微笑みかけ、パチンと片目を閉じてウインクを飛ばした。


「…!?」


女の子は、ガナッシュへの恐怖を一瞬で忘れたように、ボッと顔を真っ赤にさせた。私の「美少年顔」から放たれた無自覚な(フリをした)色気に当てられたらしく、胸元でトレイをぎゅっと抱きしめて視線を泳がせている。


「あ、あの……そう、なんですか……? 」


「そうですよー。私みたいな行き倒れのガキを助けて、わざわざ新しい服まで買ってくれるくらいですから。ね、兄貴?」


私はガナッシュの脇腹をツンと突っついた。


「……余計なことを言うな。さっさとメシを持ってこい」


ガナッシュはぷいっと横を向いたけれど、その耳の裏がわずかに赤い。女の子は「ふふ、仲良しなんですね」と、今度は私を意識したような、少し熱っぽい視線をこちらに残して奥へと消えていった。





【今回の成果:リアの観察ログ】

• 自身の擬態レベル:Aランク(体に合う少年服になり、より自然に)

• ガナッシュの耐久力:残り35%(公衆の面前での「大好き」により大幅減少)


まだご飯食べれない……

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