また祭囃子が聞こえてくる
「お母さん、私祭りの手伝いに行ってくる」
確かに覚えている。確か今日は、祭りの設営を手伝う日だ。
「あら、花音が自分からそんなこと言うなんて珍しいわね。風邪でも引いた?」
「違うよ」
家を出ようとしたところで、近所のおじさんがやって来た。玄関にいた花音はすぐさまドアを開けると、おじさんは申し訳なさそうな顔をして言う。
「ああ、花音ちゃん。悪いんだけどね、祭りの設営を手伝ってくれないかい」
「ちょうど今から行くところでした!いってきます!」
お母さんもおじさんも、呆気に取られていた。私はそうまでして確かめたかった。彼がどうなったか。
勢いよく飛び出してきたものの、別に花音は暑さに強くなったわけでも体力がついたわけでもない。
「もーうむり。マジで死ぬーーー」
結局すぐに体力の限界が来た。神社の集会所みたいなところで花音は地域のおばあちゃんたちに混じりクーラーの涼しさを享受していた。その時だった。頬に何か冷たいものが当たった。
「ヒャッ!?」
「おー悪い悪い。藤沢頑張ってるじゃん。これ飲みなよ」
そこに立っていたのは、花音の想い人、明希だった。
「あき……くん」
花音は無意識に、涙を流していた。
「お、おい藤沢!?そんなに仕事大変だったのか?それとも俺なんか悪いことした?」
涙が溢れて止まらない。明希が困っているのも、周りのおばあちゃんたちがこっちを見ているのもわかっているが、それでも止まらない。
「大丈夫か?とりあえずこれ飲めよ。」
花音はペットボトルのお茶を受け取った。今回は、今回は絶対に失わない。
空が茜色に染まり始めたころ、ようやく花音は屋外へと足を運んだ。花音がひいひい言いながら机を運んでいた時と比べて、見違えるほどお祭りの雰囲気が出ていた。私に何ができるだろうか。お祭りの日には、きっとまた山火事が起きる。あれを事前に防ぐことはできないだろうか。知っているからこそできることが、あるはずだ。
「なに黄昏てんだよ藤沢?」
長時間肉体労働をしていたとは思えないほどピンピンしている咲が屋台の方からやってきた。
「う、うるさい。ちょっと昔のこと思い出してただけ。」
「ふふっ、昔ねえ。あんた、結構泣き虫だったよね。パパがいないと寂しいってずっと泣いてた印象しかないよ」
「な、その話もうやめてよ!」
咲は少し揶揄うと、花音に顔を近づけて言った。
「で?明希とはどうだったのよ」
ここはきっと顔を真っ赤にして怒るべきなんだろう。だけど花音はそれをせず、少し自慢げに言った。
「まあね、そこそこかな」
「えー!もしかして何があった?告った?告られた?ねえねえねえ!」
ちょっとした優越感を感じながらも、花音はこの後の流れを思い出す。
「それより咲、そんなこと聞きにわざわざ来たわけ?」
「そうそう。実は別に本題があるのだよ。ふふん」
知ってた。
「神社の神主さんがね、私たちオカルト研究会が屋台一つ出して良いって!」
「やったじゃん」
「えー?なんか反応薄くない?めっちゃすごいことだよ?」
知っているので思わず適当な返事をしてしまった。
「ええー?それはとんでもないことだねー!」
「藤沢、あんたふざけてる?」
今度はわざとらしすぎたようだ。
「と、いうことで私たちは射的の屋台でも開こうかなと!」
「いやオカルト関係ないのかよ」
このやりとりを知っているはずなのに、また彼女の欲しがるツッコミを入れてしまった。そう反省していると、後ろから明希が現れた。
「なに?お前ら屋台やるの?楽しそうじゃん俺も入れてよ」
「うん」
花音がそう相槌すると、咲はこう言い放った。
「ふっふっふ。明希くん。それならば、君もオカ研に入りたまえ!」
「え?いいよ」
思ったよりあっさり承諾を得たことに、咲はぽかーんとしていた。
こうして再び始まったのだ。私たちの夏が。




