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始まりの夏

薄い木製の壁にどん、と何かが当たったような音がしたと思ったら、それをきっかけとして「みーん、みーん」と蝉が鳴き始めた。


「うるさいなあ」


自室の畳の上で少年漫画を読んでいた花音は、雑誌から目を離し窓の外を少し睨んだのだった。


 (少しお腹が減ったな…)


花音は扉を開き、それを丁寧に閉じることもなく階段を下っていった。


「お母さーん」


そう声をかけながら台所に顔を出すと、机の上には置き手紙があった。


『ママは少し買い物に行ってきます。お腹が減ったらこれを食べてね。』


その横には丁寧にラップに包まれたおむすびが三個ほど皿の上に並んでいた。スマホ片手におむすびを口に運び始めると、玄関の戸を叩く音が聞こえた。


「藤沢ー!!いるかーー???」


花音は額に人差し指を中指を当てると、お決まりのセリフを放った。


「やれやれ」



「言っておくけど、あんたに出すお菓子とかもうないからね」


呆れた風に花音がそう言っても、彼女の親友・砂町咲はニコニコしたままだ。


「おーい、なんだーその態度は?私はお客様だぞ?ガハハ」


咲はこういうやつなのだ。将来は資金源も謎のまま世界一周旅行とかをしてそうな女である。


「おー!世界一周?いいねそれ」


声に出ていたようだ。


「それより藤沢ー。今日もまた面白い噂を持ってきてやったぞー?」


「なんで私が噂を持ってきてもらう側なのよ」


なんだかんだで花音は咲に麦茶を用意しながら、少し笑顔を交え会話をしていく。


「藤沢、三番地の駄菓子屋を知っているだろ?」


「そりゃ知ってるけどさ」


花音や咲が住んでいる町はとても小さい集落だ。住人全員がお互いの顔と名前、職業を知っているくらいの。そして咲が話題に上げた三番地の駄菓子屋は、十五年ほど前までおばあちゃんが営んでいたお店だったが、ある日を境に店が全く開かなくなってしまった。町ではおばあちゃんはもう亡くなっているのではないかという噂が立っていた。


「なんとだな、私が掴んだ機密情報によると、あの駄菓子屋にこの前、人が出入りしていたらしい!!」


鼻息を荒くして近づいてくる咲の顔を手で押さえる。


「でも確かに不思議だね。誰がなんのためにあの店に出入りするんだろう」


「そうよねそうだよね!我々オカルト研究会としては見逃す訳にはいかない一件な訳だよ!」


「だから私はそんなトンチキな研究会に入った覚えはないけど?」


オカルト研究会は、咲が学校に非公式で勝手に作った部活のようなものである。なぜか花音も勝手に加入していることになっているらしい。


「でもさ咲。この前の『怪奇!池の上に浮かぶ生首見たり!』の時だって、ただの大きい岩の見間違いだったじゃない」


外の蝉ですら溶けていきそうな気温の中、外に連れ出されそうな予感を感じた花音は前回の失敗を蒸し返した。


「でもね花音。今回の駄菓子屋の件、名付けて『衝撃!荒廃した駄菓子屋に出入りする怪しい影を見たり!』は何かの犯罪に関わっているかもしれない。調査しなければいけないんだよ!」


そういうと咲はグビっと用意された麦茶を飲み干した。


「勝手に荒廃させるな。てか変なタイトルつけるな。そもそも何かの犯罪に関わっているなら私たちじゃなくて警察の仕事でしょう?尚更危なくてやりたくないよ」


ど正論をかまされてしまった咲は少し考えた後、鞄からあるものを取り出した。


「藤沢。これ欲しくない?」


「そ、それは、じぇるる!!」


じぇるる。クラゲの形に可愛い顔がついたキャラクターだ。そして、藤沢花音はじぇるるのグッズには目がない。


「この前、街に出た時買ったんだー♪あ、でもいらないなら私が家に飾ろっかなー?」


この後どうなったかは言うまでもないだろう。花音は咲に連れられ、三番地まで足を運ぶこととなった。


 もうあたりには西陽が差し始めていた。涼しくて快適だが、田舎なので暗くなる前には帰宅したい。駄菓子屋の前に到着すると、早速何か違和感を感じた。


「咲、あれ…」


「あ、ああ。」


駄菓子屋の横の雑草が生え散らかっている場所に、何やら小さい荷台付きの車が止まっていた。


「ふふふん。アレは怪しいね藤沢。私のオカルト嗅覚に間違いはないということだ。」


どちらかといえばオカルトじゃなかった場合の方が怖い。花音はそんなことを考えていた。

その時だった。駄菓子屋の扉が軋んだ音を立てて、ギギギッ、と開き始め、その奥からは何やら人が出てきた。


「咲、まずいって!大人の人呼んでこようよ!」


できる限り小さな声で咲に声をかける花音。店から出てきた人物は、大きな箱を抱えておりそれを車の荷台に積み始めた。


「も、もしや無人の家を狙った空き巣…?」


咲の方に目をやった花音は目を丸くした。


(いない…?!)


「おりゃーーーー!!!!」


咲はその不審者に特攻をかけていた。


「咲!何してんの!」


勢いよく謎の人物に体当たりをかますと、咲は花音に向かって叫んだ。


「誰か大人の人呼んできて!」


花音は震える足を動かし、神社の方へと向かった。


 (神社なら誰かいるはず…!!)



「き、君!ちょっと待ちたまえ!」


「うるさい!空き巣犯!」


咲は謎の男をガッチリと捕まえていたが、何か様子がおかしい。

 神社の神主や数人の大人を連れた花音は咲の元へと帰ると、咲は正座をしていた。


「???」


花音は状況がよくわからない。その時、神主が言った。


「あれ?高橋さんじゃないかね?」



 今回の結末。謎の男は、駄菓子屋のおばあちゃんの息子さんだった。数日前おばあちゃんが亡くなったので、遺品を整理しにきたらしい。おばあちゃんは体調を崩してからというもの、ずっと街の方の病院で入院していたらしい。もちろん私たち二人は夏休みなのにも関わらず先生に呼び出され、職員室でみっちり絞られたのだった。


「でもさー藤沢。あんな夜中に来ることないじゃんね?」


こいつ、全然反省してねえ。


「あのさあ咲。こんなこと続けてたら、マジでオカ研

潰されるよ?気をつけようね本当。わ、私だって結構楽しいんだからさ…」


「え?藤沢、今最後なんて言ったの?」


花音は顔を真っ赤にすると、


「う、うるさい!とにかく、もう二日にいっぺんくらいのペースでうち来るのやめてよね!」


蝉の声が鳴り止まない、長い長い坂の道を一人で駆け上がって行ったのだった。

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