続いていく夏
咲は折りたたみ傘を片手に、豪雨の中を走り抜けていた。やがてようやく学校へと到着すると、大して雨粒を落としもせず傘をビニール袋の中へと突っ込んだ。
「ひゃー、すごい雨だね全く」
扉の外の、まさにバケツをひっくり返したような光景を見ながら咲は呟いた。靴を履き替えると咲は、傘を持っていた方とは逆の方の手に持っている、人数分のお茶が入った袋をぶんぶんと振り回しながら教室を目指した。
「おっはようございまーす!」
咲は既に来ていた三人に大きく挨拶をした。
「遅いぞ砂町。この俺ですら早く来てるのに」
「うっさいわね瀧。ってかなんであんたがいるのよ」
明希は少し申し訳なさそうな顔をしながら苦笑した。
「まあ、瀧が来ること明希くんから聞いてたから知ってたけどね。はい、みんなの分のお茶ー。」
「いや知ってたのかよ!」
由奈はその光景に口に手を当てて上品に笑った。
お茶を片手にある程度談笑した四人は、いよいよ今日の本題である屋台の準備に取り掛かろうとしていた。
「ち、ちょっと待ってもらっていいですか…?」
「ん?鈴原さんどうしたんだ?」
由奈は控えめに話の主導権を手に入れると、自身のカバンからあるものを取り出した。それは、古ぼけた紙だった。
「なにこれ由奈?なんか古そうだね」
「そうなんです。私読書が趣味で、この前も図書館に行ったんです。その時なんですけど、本棚の一番奥でとっても古そうな本を見つけて。それで気になって開いてみたら、この四枚の紙が入っていたんですけど」
由奈は見やすいように古い四枚の紙を机の上に並べると、指を指す。
「これを見てください。」
そこに記されていたのは、衝撃の文字だった。
『咲へ』
『由奈へ』
『明希くんへ』
『瀧へ』
「な、なんだよこれ…?俺たちの名前が書かれているぞ」
瀧は動揺を隠せない様子だった。もちろん他の三人も同じだ。
「これどうやら、手紙みたいになっているみたいなんです。なので、みんなで中身を読んでみませんか」
「そうだね、みんな、一旦読んでみようよ」
四人はそれぞれ、自分の名前が書いてあるその紙を開いた。
『みんな、元気ですか?私の経験上、きっとみんなは私のことなんて綺麗さっぱり忘れて新しい人生を送っていると思います。私は結局、そっちに戻る方法がわかりませんでした。きっと戻る手段なんてなかったんだと思います。それでも私は、みんなの笑顔を守ることができてとっても嬉しいです。なんの話をしているのかわからないでしょう。でも、それでいいんです。みんながこれからも幸せで暮らしていけることを願っています。
みんなの親友 藤沢花音』
「な、何よこれ…」
咲は自然と涙が溢れていた。咲だけじゃない。由奈も、瀧も、明希も。一人一人内容は異なっていた。そして、明希の手紙はこんなふうに締めくくられていた。
『最後にあきくん。私はね、本当はあなたのことが好きだったんです。お祭りの日に聞けなかった言葉、百年越しでいいから聞かせてほしいな』
明希は何も覚えていない。花音という少女のことも、お祭りの日の言葉とやらも。それでも明希は、手を震わせて涙をいっぱいに溜め、ただこう呟いた。
「俺もだよ、花音」
夕暮れが近づき、ひぐらしが鳴き始めるころ。まだお祭りの浮ついた雰囲気を残した彼らの町の片隅で、四人は集まっていた。
「ここみたいです」
由奈が下調べをしていたので間違いない。
「俺たちとこの人ってどんな関係だったんだろうな」
「俺もわからない。でもさ、なにかあるだろ?感じるものが」
瀧と明希は顔を見合わせてニッと笑った。
「それにしても裏山のこんなところに墓地があったなんてね。なんかちょっと大きいお墓だし、この藤沢花音さんって人はやっぱすごい人だったのかなー?」
四人は花を手向けると静かに手を合わせた。草花の揺れる音と蝉の鳴き声だけがただ響く。まるでとっても長い長い、この夏の終わりを告げるように。
ここまで読んでいただいた方々、誠にありがとうございます。
本作は数年前に書き終えてずっと未発表のままでしたが、突然思い立ち投稿させていただきました。初めて書いた作品ですので、拙い文章だったと思います。それでも、楽しんでくださった方がいらっしゃれば光栄です。
また何か書いたら投稿いたしますので、その際は読んでいただければ幸いです。
本当にここまで読んでいただきありがとうございました。




