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始まる前の夏

「ということで、夏休みだからといってハメは外さないように。街に出る時も、暗くなる前に帰ってくるなど気をつけること。わかりましたか?」


そういうと先生は号令をかけて帰りの挨拶を済ませると、そそくさと教室から出ていってしまった。


「おい藤沢〜!さっき先生が喋ってた時寝てただろー!この咲さんの目は誤魔化せないんだぞ〜」


咲が三個後ろの席から花音の席へとやってくる。意識が朦朧としていた花音はようやく意識がはっきりとした。


「咲!?なにこれ!」


咲は驚いたような顔をした。


「なにこれってなんだよ。よくわからんな藤沢は」


花音は黒板に書かれている日付を確認する。

七月十一日。

いつもループが始まるよりも、八日前…?なぜこうなったんだ…?少し考えたあたりで、一つの推測が立つ。


(確か私はいつもとは違う日に車に轢かれて死んだはず。あの日は確か八月十一日…。つまり、私の能力は決まった時間に戻るわけではなく、死んだら一ヶ月前に戻る能力なのか…?)


「ねぇ聞いてる藤沢?」


「ごめんなにも聞いてなかった」


咲は呆れた顔をした。花音はそれを無視して、膝を確認する。まだちょっと転んだ傷の跡が残っていた。間違いない。花音の能力はただのタイムリープではなく、死ぬと体の状態を保持したまま一ヶ月前に戻る能力なのだ。いつもより八日も多く時間があるのだ。何かきっと今までにできなかったことがあるはずだ。


「咲ごめん、今日はもう帰る!」


花音はスクールバッグに筆箱とポーチを雑に詰め込むと、出ていってしまった。


「なんだよ〜この後遊びに行こうと思ったのに。ま、今度藤沢の家に突撃すれば良いか」



 花音は考える。今しかできないこと、何かないか。きっと今までにたくさんヒントはあったはずだ。八日後にはもうできないこと、なんだろう。今までの会話を思い出す。


 『石碑に関しては今はもう何が書いてあるかわからないんですけど…よっぽど昔から住んでいるおじいちゃんおばあちゃんなら知っているかもしれないんですけど、石碑ができた時から生きているお年寄りももういないでしょうし…』


前回の世界で由奈はそう言っていた。だけど、今ならまだいる!!花音は家に帰る暇もなく、学校から一番近くのバス停からバスに乗り込んだ。


 『次は〜走崎病院前〜』


花音は病院のロータリーのようなところに降り立つと、その大きな総合病院を見上げた。まだいるはずだ。あの人が。



「高橋さん、面会の方が来られてますよ」


看護師のお姉さんは、老人にそう言った。


「はて、誰がきたのかね」


白く清潔な、スライド式の扉が開くとそこにあったのは意外な顔だった。


「ありゃ、あんたは藤沢さんちの子じゃないかね?」


「おばあちゃん。お久しぶりです」


花音は会いにきたのだ。八日後にはもういなくなっている駄菓子屋のおばあちゃんに。


「おばあちゃん、教えてください。裏山にある石碑にはどんな意味があるんですか?」


老人は少し目を細めると、またにこやかな笑顔に戻った。


「そうだね、あれができたのは私が生まれる七年前だったはずだから…ちょうど百年前かね。あそこの場所でね、近所の子供たちが『百鬼夜行』を呼び出す儀式をしただのなんだのって。当時の人は本当にそれを恐れてあの場所に石碑を建てたみたいなんだよ。今となってはもちろん迷信だって誰でもわかるんだけどねえ。」


そういって老人は笑った。だけどそれは違う。迷信なんかではない。どういう理屈かはわからないが、その儀式によって『百鬼夜行』が現れたのがちょうど百年後の来月のお祭りの日ということなのだろう。おばあちゃんにお礼を言った花音は病院を後にして、小さな地元の町に向かうバスに乗る。どうやって解決したら良いんだろう。何度もやったからわかる。あの『百鬼夜行』とかいうのは、人間がまともに戦って勝てる相手ではない。どれだけ頭を捻っても、花音は解決法を一つしか思いつかなかった。


 雨の中、花音はまた真面目に学校へと足を運ぶ。花音はびっしょり濡れた傘を適当に振ると、下駄箱の傘立てに突き刺した。外からは風と大きな雨粒が壁に当たる音が絶え間なく続いていた。花音は、こういう風景が意外と好きだった。集合場所になっている三年一組の教室に入ると、もう四人とも到着していた。


「みんな。遅れてごめんね。でも私、決めたから。もう絶対にみんなを悲しませない。私は、私は、私しかできないことをする!!」


咲も、由奈も、明希も、瀧も、ぽかんとしていた。花音は教室の窓を開けると、思いっきり外に身を投げた。


「お、おい藤沢!!!」


「私絶対、負けないから!絶対みんなを幸せにするから!」


鈍い音は雨音に掻き消されてよく聞こえなかった。四人の青ざめた顔を見ることもなく、花音は『次』へと向かった。

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