少し変わった世界
今日は由奈が咲に連れられて花音の家にくる日だ。花音はまたも自室の片付けに勤しんでいた。前の世界でもやったんだけどな、片付け。
「花音?咲ちゃんが来てるわよ。」
母親のその言葉に適当に返事をすると、花音は玄関の戸を開く。
「知っているかい藤沢。裏山にある、謎の石碑を!」
「はいはい、それよりも由奈いるんでしょ?隠れないで出てきて良いよ」
気だるそうに机に肘をついたままそう言い放つ花音。
「な、なぜわかった!もしや由奈、花音と繋がってたなあ!」
由奈は慌てて現れると、必死に否定する。
「っていうか藤沢さん…私のこと、『由奈』って…」
なんだか恥ずかしそうな顔をしている。そういえばこの世界では大して喋ったこともないんだった。
「それで、本題は?」
花音はもうとっくに知っているが、一応彼女らの口から喋らせる。三人は由奈の持ってきたスナック菓子を頬張りながら話を始めた。内容は前聞いたものも全く同じだった。古い本を見つけ、例の品が挟まっていたというものだ。由奈はくしゃくしゃで、所々破れた紙を机の上に置いた。そこには、こう書かれていた。
『百鬼夜行が来る!』
「なにこれー?気持ち悪ーい」
咲は思ってもなさそうにそう言った。
「あのさ由奈、これと裏山の石碑が何か関係あるんだよね?」
「藤沢…!なぜそれを!私が独自の調査でようやくわかったことなのに!」
咲がどんな調査をしたのかは知らないが、おそらく花音の方が数倍とんでもない調査をしている。
「そうなんです…石碑に関しては今はもう何が書いてあるかわからないんですけど…よっぽど昔から住んでいるおじいちゃんおばあちゃんなら知っているかもしれないんですけど、石碑ができた時から生きているお年寄りももういないでしょうし…」
由奈は困った顔を見せた。結局今回も何もわからずじまいだ。由奈が屋台の準備に参加することだけが決まり、この日は解散した。
花音は傘立てに傘を刺すと、下駄箱から自分の靴を取り出す。もう流石に久しぶりといった感覚もなかった。今までの世界ではスキップするほど楽しみだった屋台の準備も、今日はそこまででもない。明希が来ないからだ。明希がいないということは、多分瀧も来ないだろう。三階にある花音たちの教室、三年一組を目指す。雨音が響く空間に階段が軋む音が混じり、不思議な音色を作り出す。教室に着くと、もう咲と由奈は到着していた。
「遅いぞー藤沢ー!罰として校庭三周だ!」
「大雨だよバカ」
今回は三人しかいないということで、一旦小物だけを作って解散することに決めた。咲がペットボトルのお茶を花音と由奈に手渡すと、制作が開始する。あのインチキくじ引きがなくてちょっとだけ寂しい。
今までの世界では由奈と咲が二人でやっていた作業に今回は花音も加わってやったため、やはり予定より早く終わった。
「明希にも早く腕を治してもらって、手伝わせないとね」
カバンを振り回しながら昇降口へと向かう咲は、ニッと白い歯を見せた。こいつ、結構人使いが荒い。傘を差して歩き始める三人。そんな他愛もない光景。それが一変する。
「藤沢さん!危ない!!!!」
由奈が今までで一番大きな声を出す。花音は驚いて横を見る。間に合わなかった。
ぶおおおおおおおお、と、黒い車が通り過ぎていった。その赤黒いものは、雨と一緒に流れていった。咲と由奈が何かを言っているのが聞こえた気がしたが、それが花音に届くことはもうなかった。




