繰り返す夏
薄い木製の壁にどん、と何かが当たったような音がしたと思ったら、それをきっかけとして「みーん、みーん」と蝉が鳴き始めた。部屋の中なのにとっても暑い。身体中が嫌な汗でべったりだった。
「はあ、はあ、はあ、はあ」
夢じゃない。今度こそ忘れない。間違いなく、絶対的な未来に『アレ』はやってくる。しばらく呆然としていた花音だったが、あることに気がつく。
「…痛い…?」
短パンを履いているため常に外部に露出している、膝小僧を確認する。まるで"転んだかのような怪我"がそこにはあった。
「な、なんで…?」
ハッ、と指先を確認する。ほぼ治っているものの、少し切った後が残っていた。
(身体の状態はリセットされていない…?)
そしていつも通り。ゴンゴンゴン、と玄関の戸を叩く音が聞こえた。
「藤沢ー!!いるかーー???」
花音は拳を強く握った。絶対に負けない。三度目の負けられない夏が、始まった。
結局咲の持ってきた話はまたも同じ、駄菓子屋の話だった。解決の仕方も前回と同じ。神主におばあちゃんの息子である高橋さんが駄菓子屋に出入りしていることを確認してもらった。おかげで咲がタックルをかますこともなく、平和的解決に至った。
祭りの準備にも行った。明希と会い、お茶をもらった。夕方には咲が屋台を開く約束を神主に取り付けてきて、明希の参加も決定した。
またある日は咲に連れられて由奈がうちに来た。古ぼけた本からシワシワの紙を取り出し、その真相に迫るため石碑の前まで行ったが何も分からなかった。由奈が屋台作りに参加することももちろん決定した。そして、雨の日がやってきた。
外は窓がガタガタいうほどの強風を伴った豪雨。花音は三年一組の教室へと入っていった。四人と馴染みの会話を繰り広げたところで、作業に移った。
「藤沢。なんか顔色悪くないか?」
同じグループで作業をしている明希が花音の顔を見て、そう言った。
「そ、そんなことないよ」
「お前、最近疲れたような顔してる。俺たちにできることであれば何でも手伝うからさ、相談してくれよ」
花音は前回のお祭りの日を思い出していた。なぜか高台へ誘った花音に不信感を露わにした皆んな。明希だって庇ってくれていたけど、心の中ではその真意を探っていたと思う。花音は泣き出してしまった。
「あー!明希が藤沢を泣かせたぞ!」
「お、おい違うって!どうしたんだよ藤沢!」
花音は決心した。全部話そう。みんなに。
「え、つまり藤沢はもう同じ夏休みを三回過ごしていて?」
「俺たちとこの作業をするのも三回目で?」
「お、お祭りの日には山火事が起きて………?」
「町のみんなが死んじゃうっていうのかよ!?」
花音は小さく頷いた。
「信じてもらえないよね…」
咲は花音の背中を軽く叩いた。
「アッハッハ!何言ってんのあんた!確かに馬鹿みたいな話だけどさ、それで藤沢が悩んでるってんなら全力で協力するさ!」
明希も言う。
「まあ、そうだな。確かに聞いた今でも信じられない。だけど、それで藤沢の悩みが軽くなるならみんな協力するぜ!」
屋台の準備は一旦中止とし、作戦を立てることにした。ようやく、歯車が動き始めた。
「やっぱ色々考えてみたけどさ、やっぱあの方法しかないんじゃないかな」
明希は顎に手を当ててそう言った。
次の日、五人は神社に集まっていた。
(そういえばこの日にみんなと会うのは初めてだな…)
花音はそんな風に考えていた。なぜ今日神社にやってきたのかというと、明希のアイデアを遂行するためだった。
「藤沢と私が神主に話しつけてくるから、三人はここで待ってて」
咲と花音は、お祭りの中止を申し入れるために神主に会いにきたのだ。もちろん簡単ではないことはわかっていた。だが、その難易度はあまりにも高いものだった。やがて戻ってきた二人の表情を見て、いい結果が得られなかったことを明希は悟った。
「全然ダメ。そもそも私たちの言うこと信じてくれないし、町の人たちもお祭りを楽しみにしてるから中止にはできないって」
五人の間を沈黙が包んだ。
「やっぱさ、もう強硬手段しかなくね?」
瀧の提案したやり方は良いものとは言えなかったが、五人にはもうそれしか残されていなかった。




