表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/114

第九十八話

(これを、どうするべきか……) モエは、椅子に深く腰掛け、頭を抱えた。 酒呑童子(店長)からの依頼は、継人の警護と監視。この異常な石の存在は、間違いなく報告すべき事項だ。継人の身に危険が迫っているかもしれない。 (酒呑ちゃんに報告すれば、縁切りが進む……でも、ぬらりひょん様に逆らうことになる)


ぬらりひょんからの命令は「石を渡せ」。目的は、酒呑童子が継人との縁を切る計画を阻止すること。逆らえば後が怖い相手だ。 (ぬらりひょん様に従えば、廻くんが危険に晒され続けるかもしれない。でも、逆らえば……)


どちらに転んでも、誰かの意向に背くことになる。 キリキリ、と胃が痛み始めた。


(……いや) モエは顔を上げた。 (やっぱり廻くんを危険なままにはしておけない。酒呑ちゃんの依頼を優先する。……そのためには) モエは覚悟を決めた。 (ぬらりひょん様を、欺くしかない!)


モエは、ハンカチに包まれた本物の「石」を横に置き、集中した。化け狸としての力。変化と幻術。人心を惑わす才。 その力を、今、全力で「無」に注ぎ込む。 本物の石が持つ、あの「見えにくいが存在感のある」奇妙な気配を再現する。


(……こんな感じ、か) モエは、自身の妖力で練り上げた「気配」の塊を、別のティッシュの上にそっと置いた。 見た目は、ただのティッシュだ。だが、意識を凝らせば、本物の石と同じように、そこだけ空間が歪み、何かがあるような、しかしはっきりとは見えない、奇妙な存在感がある。 我ながら、一世一代の出来だった。


***


翌日。 モエは、指定された料亭の一室で、ぬらりひょんと向かい合っていた。老婆の姿だった。

「……それで、例の物は?」

「はい。こちらに」


モエは、カバンから、昨夜作り上げた「偽物の石」を、ティッシュごと取り出し、恭しく差し出した。 ぬらりひょんは、そのティッシュ(にしか見えない物)をジロリと見た。指先で、そっと触れる。

「……ふむ」


モエは、息を詰めて、その反応を待った。

(……バレてない?)

「確かに……妙な気配はするねぇ」 ぬらりひょんは、意外にもあっさりと頷くと、そのティッシュを懐にしまった。 「よかろう。これは私が預かる。酒呑には……まあ、うまく言っておきな」

「は、はい!」


(……よし!) モエは、内心でガッツポーズをした。

「確かに預けました。これで安心ですね」 完璧な笑顔でそう言い添えると、ぬらりひょんは満足そうに茶をすすった。 (……胃が痛い……) 大物を欺くストレスは、想像以上だった。


***


ぬらりひょんとの面会を終えた足で、モエは急いで店へと向かった。 ガラガラ、と引き戸を開けると、店長が一人、カウンターでタバコをふかしていた。


「酒呑ちゃん!」

「……モエか。」


モエは、カウンターに駆け寄ると、今度はポケットから本物の「石」を取り出し、店長の前に置いた。

(もちろん、店長にはティッシュの凹みにしか見えないだろうが)


「これ!」

「……!」 店長は、その異常な気配をすぐに察知し、目を見開いた。


モエは、早口でまくし立てた。

「廻くんから預かった石だよ! ハロウィンの日に、子供からもらったんだって! 私にもちゃんと見えないし、写真にも写らない! 絶対ヤバいやつ!」

「……」

「さっき、ぬらりひょん様に呼び出されて、石の引き渡し要求されたけど……偽物作って渡して、なんとか凌いできた!」


モエは、そこまで一気に言うと、ぜえぜえと肩で息をした。 店長は、黙ってテーブルの上の「石」を見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ