第九十三話
「うーん……好きな食べ物も分かんないのか……」 継人が腕を組んで悩んでいると隣で、
「だよな……」とラキさんも深く落ち込んでいる。 (意外と、乙女だな、この鬼……)
その時、二人の背後から、店長の気だるげな声がした。 「……めんどくせえな。本人に聞きなよ」
「え?」 継人とラキさんが振り返ると、店長はスマホを取り出し、慣れた手つきで電話をかけ始めていた。
「ちょっ……! お頭!? まさか……!」 ラキさんが慌てて止めようとするが、既にコール音が鳴り始めている。
「……あ、たけまる? 私だ。……うん。……今から来れる?」 店長は、こちら(継人とラキ)の焦りなど全く意に介さず、淡々と会話を進めていく。
「え? いや、違う違う。……あっはは! 今日は、それじゃなくて……。ウチの茨木の方」 (『それ』ってなんだ!?) 継人は心の中でツッコむ。
「そうそう。……うん。……店で。……ああ、待ってる」 ピ、と通話を切り、店長はスマホをポケットに戻すと、固まっている二人に向かって一言だけ告げた。
「……来るよ」
「「えええええええっ!?」」
継人とラキさんの悲鳴がハモった。
「ちょ、お頭! 早すぎますって!」
「なんの準備もできてませんよ!」
「別にいいだろ」
トントン拍子にもほどがある。あまりの展開の速さに、ラキさんは完全にパニックを起こしていた。
「ど、どうしようバイト君! 何話したらいいんだ!? 服装! 髪型! やべえ!」
「落ち着いてください、ラキさん!」
「そうだ! 四天王! 四天王に助けを……!」
ラキさんはそう叫ぶと、暖簾の奥、恐らく四天王たちが詰めているであろう部屋に向かって駆け込んでいった。 継人も心配で後を追うと、部屋の入口からラキさんの必死な声と、それに対する呆れたような声が聞こえてきた。
『頼む! おたけさんが来るんだ! 何かアドバイスを!』
『……はあ? おたけさんが来るから助けろ? ……茨木、お前、ビビってんじゃねえよ』とカネさんの声。
『酒呑童子の懐刀だろ?』とトラさんの冷静なツッコミ。
『こういう時に特攻するのが茨木童子っしょ!』とホシさんの煽り。
『まあまあ、頑張って』と、くまさんの(ある意味一番キツい)応援。
「……だと思った」 結局、役に立つ助言は何もなかったらしく、ラキさんは意気消沈して店に戻ってきた。 途方に暮れるラキさんに、継人は(にわか知識でごめんなさい、ラキさん……)と心の中で謝りながら、精一杯のアドバイスをした。
「と、とりあえず! 会ったらまず、食事行きましょう! で、『何食べたいですか?』って聞いて!」
「お、おう」
「あと、相手の趣味の話とか、もし分かんなくても、ちゃんと相槌打って! それから、相手のこと、いっぱい褒めて!」
「ほ、褒める……」
「今日のところは、あんまり意見とか言わずに、ひたすら『分かる〜』って共感するようにしましょう!」
「わ、分かった! やってみる!」 ラキさんが、悲壮な覚悟で頷いた、まさにその時だった。
ガラガラガラ……。
あの、豪快な女性――たけまるさんが、店の扉を開けた。




