第九十一話
結局、店長は(面倒くさそうにではあったが)味噌汁の作り方を丁寧に教えてくれた。出汁の取り方から、味噌の合わせ方、具材を入れるタイミングまで。継人はそれを必死にスマホにメモし、大事なものとして保存した。
それから、最近聞こえるようになったガラクタたちの囁き声への対処法も教えてもらった。
「基本的に無視しろ」
「どうしても気になるなら、心の中で『うるさい』と念じろ」とのことだった。案外、原始的な方法らしい。
継人がバイトを終えて店を出た後、入れ替わるようにラキが暖簾の裏から顔を出した。
「お頭」
「ん」
「さっき、晴明の使いから連絡ありました。例の件で、必要な呪文と道具一式、送ってきたそうです」
「そうか」
「あと、伝言。『分を弁えろ、鬼』だそうです。……腹立ちますね」 店長は、その伝言には特に反応せず、タバコの煙を吐き出した。
「……わかった。ラキ、悪いな。……しばらく、たけまる(大嶽丸)とも会えなくなるぞ」
「元々、そんな頻繁に会えるわけじゃないんで、大丈夫っすよ」 ラキは、カラッと笑って答えた。
***
翌日のバイト中。 継人がカウンターでぼんやりしていると、ラキが隣に座ってきて、妙に真剣な顔で話しかけてきた。
「なあ、バイト君。ちょっと相談があるんだけど」
「はい? なんですか」
「……どうしたら、『おたけさん』(たけまる)とデートできると思う?」
「……は?」 継人は、思わずラキの顔を二度見した。
「いや……元カノにさっさとフラれて、女の子(芝モエ)とのお芝居デート以降、特に何の進展もない、俺に聞きます?」
「そこをなんとか!」 ラキは必死だった。
「うーん……。とりあえず、たけまるさんって、どんな方なんですか?」
「おたけさんはな!」 ラキの目がキラキラと輝き始めた。
「豪快で! 真っ直ぐで! ちょっと不用器だけど、すごく頼りになる! まさに『姉御』って呼びたくなる、最高の方だ!」
(……めちゃくちゃ惚れてるな) 継人は呆れつつも尋ねた。
「……ラキさん、たけまるさんのこと、惚れてるんですよね?」
「なっ……!?」 ラキは、顔を真っ赤にして飛び上がった。
「な、なんで知ってんの!?」
(あ、店長から聞いたとは言えないな……) 継人は口をつぐむ。
「いや、まあ、見てれば……。ちなみに、他のメンバー……くまさんとかは、知ってるんですか?」
「え? いや……」 ラキは、急に自信なさげになる。
「四天王は……多分、知らないと思うけど……」
(……本当か?) 継人は、ちょうど暖簾の裏から出てきたくまさんに声をかけた。
「くまさん! ラキさんがたけまるさんに惚れてるって、知ってました?」
「え? 知ってるよ」
「カネさんは?」
「うん、知ってるよ」
「ホシさんは?」
「もち」
「トラさんは?」
「……存じております」
全員、即答だった。 継人は、隣でがっくりと肩を落としているラキに向き直った。
「……ラキさん。バレバレじゃないですか」
「なんでバレてんだ……!?」 ラキは、その場で本気で落ち込み始めた。




