第八十九話
玉藻前が去った後、店には重い沈黙が残った。 継人は、さっきの店長の、泣きそうな顔と言葉第を反芻していた。そして、決意を固めて口を開いた。
「店長」
「……」 店長は、タバコに火をつけようとして、手を止めた。
「今の状況、ちゃんと説明してください」
「……」
「店長が、たまちゃん……から情報を貰おうとしてたのは分かります。でも、俺にも知る権利があるはずです。『見える』だけじゃなくて、『聞こえる』ようにもなって……次は、どうなるんですか?」
継人の、これまでになく強い口調だった。 店長は、黙って継人を見返すと、諦めたように息を吐き、タバコを置いた。
「……分かった。話せる範囲で話す」
店長は、ゆっくりと言葉を選びながら語り始めた。
「まず、君が食べたあの『飴玉』。あれは、私ですら知覚できなかった『高位存在』が用意したモノ……奴の欠片か、何からしい 」
「高位存在……」
「ああ。君が食べ終わった後の、ただの包み紙ですら、くま(熊童子)や他の奴らには知覚できなかった 。それくらい、厄介な代物だ」
「じゃあ、やっぱり……」
「情報を集めてる。さっきの、たまだけじゃない。……昔の、私の仇敵にも、頭を下げて頼んだ 」
店長は、そこまで話すと口をつぐんだ。
(モエ(芝右衛門狸)のことや、今後の影響がどうなるか……それは、まだ憶測の域を出ない。下手に話して、こいつを不安にさせるわけには…… )
継人は、店長の沈黙を破るように、もう一度、一番聞きたいことを尋ねた。
「……俺、このままだと、どうなりますか?」
その問いに、店長は、正直に答えた。
「……分からない 」
「……!」 継人は息を呑んだ。一番聞きたくない答えだった。
「他に、隠してること、ありますか?」
店長は、継人の目を真っ直ぐに見返し、はっきりと答えた。
「……ある 」
そして、以前と同じ言葉を繰り返した。
「今はまだ、話せない。けど……しかるべきタイミングが来たら、ちゃんと全部、話す。だから……」 店長は、深々と頭を下げた。
「今は、もう少しだけ、付き合ってほしい 」
「……」 継人は、頭を下げる店長を、手で制した。 そして、フッ、と息を吐き、少しだけ笑ってみせた。
「……分かりました」
「え……?」
「言えることと、言えないことを、そうやってハッキリしてくれるなら。……俺は、店長のこと、信頼します 」
その言葉に、今度は店長が、目を見開く番だった。




