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第八十六話

(過去:大江山)


濛々と立ち込める土煙の中、酒呑童子は大地に倒れ伏していた。 見上げれば、月を背にした鎧武者――源頼光が、冷たい瞳でこちらを見下ろしている。 その手には、鬼の血を吸った童子切安綱が鈍く光っていた。


(……しくじったな)


酒呑童子は、薄れゆく意識の中で毒突いた。 あの酒、神便鬼毒酒。ただの酒ではなかった。体の力が抜け、妖力が霧散していく。


頼光が、厳かに討伐の口上を述べ始める。 「……鬼の頭領、酒呑童子。京を脅かし、人を拐かしたる罪、万死に値す。……今、天罰覿面なり」


(……) 負け惜しみは好かん。だが、このままでは終われん。


「……申し開きはあるか?」 頼光の問いに、酒呑童子は、最後の力を振り絞って言葉を紡いだ。


「……ひとつ……。昔の、恋文について……」


その言葉に、頼光の眉がピクリと動いた。

「……ほう?」


***


(現在:店)


店長は、スマホの画面を睨みつけたまま、動けずにいた。 (……高位存在の、警告)、この事態は初めてだ。 酒呑童子ですら認識できず、直接干渉してくる存在。


(……あいつなら) 店長の脳裏に、忌ま忌ましい鎧武者と、その陰にいた陰陽師の顔が浮かんだ。 (あいつなら、高位存在について、何か知っているかもしれない)


背に腹は代えられない。 店長は、覚悟を決め、震える指で、記憶の奥底に封印していた連絡先をタップした。


数コール。

「―――もしもし」 電話の向こうから聞こえてきた声は、明らかな驚きと警戒の色を帯びていた。


店長は、深呼吸を一つすると、名乗った。

「……酒呑童子だ」 相手が息を呑む気配がする。


「……教えて欲しい事がある……晴明」

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