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第八十四話

店長のもとに謎のサルが現れ、「次は耳だ」と警告を残していった、その日の午後。 継人は、大学の空きコマを利用して、芝モエとカフェテリアでお茶をしていた。


「へえ、廻くんのバイト先、ハロウィンでそんなことしてたんだ。面白そう!」

「いや、めちゃくちゃ大変だったよ……。片付けも」 継人がハロウィンのドタバタを話していると、芝モエのスマホが震えた。


「あ、ごめん。電話、出ていい?」 「うん、どうぞ」 芝モエは席を立ち、少し離れた場所で電話に出る。相手は、言うまでもなく店長だった。

 

『……私だ。バイト君に、変わった事はないか?』

「え? いや、特には……?」

『……何か、『音』が聞こえるとか、言ってないか?』

「音……?」


芝モエは、椅子に座ってカフェラテを飲んでいる継人をチラリと見る。 継人は、芝モエの視線に気づき、呑気に手を振ってきた。芝モエも、苦笑しながら手を振り返す。 (……全然、普通だけど)

「特に、なんとも無さそうだよ」


『……そうか。……すまないが、引き続き頼む』

「はーい」 通話を切り、芝モエは席に戻った。


(音、ねぇ……) 酒呑童子の、あの切羽詰まった声。何かあったのだろうか。 芝モエは、継人に悟られないようにスマホを操作し、ある相手にメッセージを送った。 相手は「うわん」――本来、見えず音だけで存在を知らせるあやかしだ。


『今、私ここにいるんだけど。この近辺で、普通の人に聞こえない様にちょっと音出してみてくれない?』


しばらくして。 継人にはもちろん、周囲の学生たちにも聞こえないはずの音が、カフェテリアの一角に響いた。

―――うわん。


(まあ、聞こえる人間なんて滅多にいないしね) 芝モエは、これまで継人が家鳴りや、べとべとさん(足音だけの妖怪)の類に反応した様子もなかったため、今回も聞こえないだろうと思っていた。 ところが。


「うわっ!? び、びっくりした……」 継人が、突然肩を震わせて辺りを見回した。

「……え?」 芝モエは、息を呑む。


「モエさん! 今、なんか変な音しなかった!?」 継人が、真剣な顔で聞いてくる。 (……聞こえてる!?) 芝モエは、驚きを隠せない。まさか、『見える』だけでなく、『聞こえる』ようにまでなっているとは。


「ご、ごめん! ちょっと、また電話してくるね!」 芝モエは、取り繕うように笑顔を作ると、慌てて席を外した。 (すぐに店長に報告しないと……!)

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