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第八十一話

あのカオスな雑魚寝部屋を後にし、継人は(まだ頭は痛いが)近くのコンビニへと向かった。 自分を含めて七人もいるのだ。水やお茶、適当なパンやおにぎりなどをカゴに放り込んでいく。


レジに並ぼうとした時、タバコの棚が目に入った。 (……あ) 以前、店長が「趣味はコレ(タバコ)」と言っていた時に目にした、あの銘柄。 (……昨日、泊めてもらったし

、お詫びとお礼も兼ねて) 継人は、そのタバコも一つ、会計に加えた。


店に戻ると、居間はまだ静かだったが、店長が寝ていた布団がもぞもぞと動き、彼女がゆっくりと起き上がろうとしていた。

「あ、店長。おはようございます。大丈夫ですか?

「……ん……。あたま、いてえ……」


「何が良いか分からなかったんで、テキトーに買ってきました」 継人は、袋からお茶とコーヒーを差し出す。

「……ん。……ありがと」 店長は、コーヒーを受け取ると、いつもの癖で服のポケットを探し始めた。

「……タバコ……」

「あ」 継人は、さっき買ったタバコの箱をスッと差し出した。


「!」 店長は、目を見開いた。それが自分の吸っている銘柄であることを確認し、継人の顔を見る。

「……なんで」

「前に、趣味だって言ってたんで。見て、覚えてました」


「……」 店長は、ほんの少し顔を赤らめると、継人から目を逸らし、恥ずかしそうにそれを受け取った。

「……ありがと」

「いえ」

「……裏、行くか」

「はい」 店長は、コーヒーとタバコを持って立ち上がり、継人もそれに続いて裏口へと向かった。


***


二人で裏口に並んで立つ。 店長が、美味そうにタバコを一口吸った。

「……ここで、寝てたのか?」

「はい。しゃがんでました」

「……」


店長がタバコを吸い始めたのを見計らって、継人は、姿勢を正した。

「あの、店長」

「ん?」

「昨日の焼肉屋で、謝りたいことがあるって言った件なんですけど」

店長は、煙を吐き出しながら、継人を見る。


「俺、店長に嘘をつきました」

「……」

「週末のことです。『友達と遊びに行く』って言いましたけど……あれ、デートでした」 継人は、まっすぐに店長を見た。


「店長は、俺に『人は騙さない』って、いつも真剣に向き合ってくれてるのに……俺は、店長のその姿勢に、ちゃんと向き合ってなかったです。なんか、気まずくて、誤魔化して……」 継人は、深々と頭を下げた。

「許してもらえないかもですけど、ちゃんと謝りたかったんです。すみませんでした」


シン、と静かな朝の空気が流れる。 店長は、吸っている途中のタバコの火を、携帯灰皿で静かに消した。 そして、継人に正面から向き直る。 いつもの気だるげな表情ではあるが、その瞳は、真剣に継人を捉えていた。


「……顔、上げなよ、バイト君」

「……はい」

「……私は、君の親でも親戚でもない。だから、君が誰とデートしようと、私に嘘をつこうと、叱る権利はない」

「……」

「けれども」 店長は、言葉を切った。

「君が、それを真摯に言ってくれた事が……嬉しい。こういう人間もいるんだと、少し見直した。……ありがとう」


「え……」

「その上で、だ」 店長は、少し言いづらそうに視線を逸らした。

「私もまだ、君に話していない事がある」

「!」

「今はまだ、話せない。けど……しかるべきタイミングが来たら、ちゃんと全部、話す」


店長は、継人の目を見て、頼み込むように言った。

「だから、今は……もう少しだけ、付き合ってほしい」

「店長……」

「……ちゃんと話してくれた人間に、こんな事を言うのは、申し訳ない」 店長は、そう言うと、逆に頭を下げそうになった。

「え、いや、なんで店長が謝るんですか!?」 継人は、困惑するしかなかった。


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