第八十話
寝苦しくて目が覚めた。 何か重い。というか、息がしづらい。
(……?) 目を開けると、誰かの腕が俺の顔の上に乗っていた。腹の上には、別の誰かの足が乗っている。
「……は?」 混乱する頭で状況を把握する。前も見た事がある天井。ああ、店の居間の床に寝かされたのか。
俺は、自分の上に乗っている、やたら筋肉質なトラさんの手をそっとどけ、ラキさんの足を腹から押しのける。部屋の隅では、カネさんが文字通り巨体を丸めて寝息を立てていた。 (……雑魚寝にも程がある)
ズキ、と頭が痛む。そして、強烈な尿意。
(トイレ……) 今度は間違えない。俺は、こっそりと布団を這い出し、教わった方の戸を開けた。 廊下に出ると、すぐに行く手を塞がれた。 (うわ)廊下の真ん中で、ホシさんが大の字になって寝ていた。俺は、それをそっと跨ぐ。 ダイニングを覗くと、くまさんがテーブルに突っ伏したまま、ピクリとも動かない。
(……全滅じゃないか) 用を足しながら、俺は昨夜のことを必死に思い出していた。 店に帰る途中のコンビニで、上機嫌な店長が日本酒のパックを買い込み、店に戻ってから二次会が始まった記憶。 トラさんとラキさんがふざけ合ってレスリングみたいなことを始めたり、ホシさんとカネさんが凸凹漫才みたいな掛け合いをしたり。 それを見ているうちに俺も楽しくなって、勧められるがままにお酒を飲んだら、それがやたら強い酒だったのか……そこから記憶がない。
「頭いってえ……」 少し痛む頭を落ち着けようと、外の風に当たろうかと、一旦裏口から外に出た。 ひんやりとした早朝の空気が、火照った体に気持ちいい。
「……ん?」 裏口の壁に、人影があった。
「店長?」 そこには、店長が、焼肉に行った時の服のまま、壁に寄りかかってしゃがみ込み、指に火の消えたタバコを挟んだまま、寝ていた。
「ちょっ……! 店長!」 慌てて駆け寄り、肩を揺する。冷たくなってる。
「店長、こんなとこで寝たら、風邪ひいちゃいますよ!」
「ん……」
「中入ましょう!」 俺は、店長の腕を引き、無理矢理立たせる。
「……んー……さむい……」 寝ぼけている店長は、足元がおぼつかない。
「もう、しっかりしてください!」
俺は、店長の腕を自分の肩に回し、その細い体を支えながら、店の中に入る。 とりあえず、雑魚寝している居間に連れて行き、空いている布団(俺が使っていたやつか?)に横にさせた。
ふう、と一息つく。 時計を見ると、まだ4時を少し回ったくらいだった。 (……とんでもない宴会だったな) 俺は、寝息を立て始めた店長を見下ろし、深いため息をついた。




