第七十九話
店長の、あの少し寂しそうな「そうか」という返事。 それを見た瞬間、継人は(大事な事に)気づいた。
(……俺、この人に嘘ついたままだ) 『友達と行く』と、『デート』だったことを誤魔化した。 さっきラキさんたちが『デート』と囃し立てた時第、店長は黙っていた。あの時も、今みたいに少し寂しそうな顔をしていたんだろうか。
(……ちゃんと、謝らなければ) だが、こんなガヤガヤした酒の席で言うことじゃない。
「あの、店長」 継人は、熱燗でほんのり頬を赤くしている店長に、意を決して話しかけた。
「明日、お店にいますか?」
「ん? いるけど? どうした?」 店長は、上機嫌なまま、不思議そうに首を傾げた。
「店長に、謝らなければならない事があるんです」
「……」
「でも、今この酒の席で言うのは違うと思うんで……。改めて明日、謝罪に行っても良いですか?」
継人の真剣な申し出に、店長はポカン、とした顔で数秒固まった。 だが、次の瞬間。「……ぷっ」 店長は、耐えきれないといった風に吹き出した。
「あっははは! なにそれ!」 いつもの気だるげな姿からは想像もつかない、優しく、高らかな笑い声だった。
「謝罪の予約? あはは! ……うん、いいよ。聞いたげる」
「……そういや」 店長は、笑い涙を拭いながら、継人を見た。
「私も、一つ。バイト君に言わなきゃいけないことがあるんだ」
「え、なんですか?」 継人が聞くと、店長は、お猪口を傾けながら、悪戯っぽく笑った。
「ん〜……ふふっ……今はないしょ」
「ええーっ!?」
「あはは」
「……店長、酔ってますね?」
「酔ってないよ」 店長は、そう言いながら、実に嬉しそうに日本酒を飲み干した。
***
それから、どれくらい飲み続けたのか。 皆がすっかり酩酊し始めた頃、ラキから「そろそろお開き!」と号令がかかった。 「おー!」「飲んだ飲んだ!」 皆、店に戻って、そのまま雑魚寝するという。
(俺も、タクシーで帰るか……)
「じゃあ、俺はここら辺で……」 継人が会計(もちろん店長たち持ちだ)を済ませた皆と別れようとした、その時。
「……」 ふらり、とした足取りで近づいてきた店長に、腕をガシッと掴まれた。 いや、絡まれた。
「え、店長?」
「……帰るぞ、バイト君」
「いや、だから俺は……」
「ん」 店長は、継人の抗議など聞かず、その腕を絡めたまま、店に向かって歩き出した。 ラキたちが、その後ろで
「あーあ、捕まった」
「お頭の酒癖だ、諦めろ」と笑っている。 継人は、そのまま店へと連れ戻された。




