第七十八話
焼肉を食べ始めて30分。 俺の前には、空いたジョッキの数がすでに数えられないほど並んでいた。いや、俺が飲んだのは最初の一杯だけだ。 恐ろしいことに、肉をガツガツ食べているのは、カネさんと俺くらいなもので、他のみんなは、肉には目もくれず、酒だけを凄まじい勢いで消費していってる。
あの量の酒が、みんなどこに消えていってるんだろうか。 飲み放題にはしてるみたいだが、それにしてもスピードが異常だ。
くまさんはカクテルとかの甘いお酒類を次々と堪能している。 ホシさんは焼酎のお代わりをしすぎて、早々にボトルで出されている。 カネさんは巨大な肉の塊とビールジョッキを交互に口に運んでいる。 タバコ組のトラさんは、ハイボールを片手にタバコを美味そうに楽しんでいる。 そして、店長とラキさんは、端の席で熱燗の徳利を何本も空けながら、日本酒を注ぎ合っていた。
みんな、各々が実に楽しそうだ。 (きっと昔の大江山でも、こんな風景が繰り広げられてたんだろうな) 俺は、鉄板の肉をひっくり返しながら、ぼんやりとそう想像してみる。
みんなのお酒が進んできた頃。
「はーい! 酔いも回ってきたし、席替えタイム!」 と、くまさんから陽気な提案が出た。 トラさんが、どこからか(本当にどこからだ?)人数分の割り箸で作ったクジを用意し、席替えが行われた。
そして俺は――店長の真横になった。
「……」 店長は、お酒を飲むからか、あれほど好きなタバコも(さっきより)控えめにして、ただひたすら日本酒を飲んでいる。 いつもの気だるげな雰囲気は消え、目元はトロンとしているが、明らかに上機嫌だった。 (これが、酒呑童子の本領……なのか)
騒がしく肉を焼く音と、ラキさんたちの馬鹿騒ぎの中、隣の店長が俺に話しかけてきた。
「……騒がしくて悪いな、バイト君」
「あ、いえ! すごく楽しいです!」
「……ここ、婆さん(ぬらりひょん)の店の一つだから。遠慮しなくて良いぞ」
「え!? そうなんですか!?」 (だからあんな無茶苦茶な飲み方を……)
継人が納得していると、店長は、熱燗のお猪口を置きながら、不意に聞いてきた。
「それで」
「はい?」
「デート、どうだったんだ?」
チクリ、と心が痛んだ。 (店長には『友達』と嘘をついたからだ) 「あ……。ええと、楽しかったと、思います」
「そうか」 店長は、そう答えると、ほんの少しだけ、寂しそうに目を伏せた。 (……) その顔を見た瞬間。
継人は、ハロウィンと焼肉で浮かれて忘れていた、一番大事な事に気づいた。




