第七十七話
作業も終わり、店はすっかり元のガラクタだらけのレイアウトに戻った。皆で作業していたから、賄いも使っていなかった。
「……さて」 埃を払った店長が、タバコに火をつけながら言った。
「飯、食いに行くか」
ラキたちが「「よっしゃあ!」」と沸き立つ。店長は、継人を見た。
「バイト君も、もちろん来るよね?」
「え、あ、はい! 行きます!」 断る理由もなかったので、行く事にした。
(店長、昔お酒で失敗した事があるって言ってたし、居酒屋ではないだろうな) 継人がそう思っていると、連れてこられたのは意外にも、モクモクと煙の立つ大衆焼肉店だった。
(……ああ、ここならタバコ吸えそうだ) 継人は店長の意図をすぐに察した。
席は、自然と分かれた。 タバコを吸う店長とトラさんが、換気扇に一番近い端に座る。 その隣に、カネさんとラキさんが(煙の)壁を作るように陣取り、継人はくまさん、ホシさんと並んで座ることになった。
(あ……店長と、離れた席になっちゃったな) 継人が、無意識にそう思っていると、目の前のホシさんがジロリと継人を睨んだ。
「なんだよ。あーしじゃ不満か?」
「えっ!? ま、全くそんな事ないです!」 継人は慌てて首を横に振った。
「すみません、カルビ10人前、ロース10人前……」 流れるような口調でトラさんが肉を注文し 、店長は早速タバコに火をつけた 。 すると、店員が人数分の中ジョッキを運んできた 。
「あれ? 俺ウーロン茶って言いましたけど……」 継人が戸惑っていると、ラキがニヤリと笑った。
「今日は特別なんだよ」
ラキによると、年に一回だけ、このハロウィンのバタバタが終わった時だけ、酒呑童子である店長は、酒を解禁するのだという 。
継人の前にも、ビールジョッキが置かれる。 店長が、珍しくタバコを置き、自分のジョッキを持った。
「……お疲れ様」 店長の乾杯の合図で、店長を含めた部下たちが、一斉にジョッキを煽り、飲み干した 。
「「「かーーーっ!!!」」」 全員、実に美味そうに飲んでいる 。 (うわ、店長がお酒飲んでる……)
継人が、その貴重な光景に目を奪われていると、目の前のホシさんが、自分のジョッキ(もちろん空だ)をドンと置いた。 「バイト君は、自分のペースで飲みなよ」
継人は「あ、はい」と頷き、自分も一口、ビールを飲んだ。
この後、あんな事になるなんて――この時の俺は、知る由もなかった 。




