第七十五話
暖簾の奥でぐったりしているラキさんたち五人を尻目に、休む間もなく次の子供たちグループが駆け込んできた。 「トリックオアトリート!」
「はいはい。慌てないで並んで」
店長は、さっきまでの気だるげな店主とは別の顔で、手際よくお菓子を配っていく。その姿は、もはやベテランの保育士のようだ。
「バイト君、今日は忙しくなるよ」
「はい!」 継人も、この賑やかな「普通の」店の雰囲気に、張り切って子供たちの対応にあたる。
ふと、継人は、入口の近くで、仮装の輪にも入らず、ポツンと一人で立っている子がいることに気づいた。 (あれ……迷子かな) 継人は、その子のそばにしゃがみ込んだ。 「どうしたの? おいで、お菓子もらっていきなよ」
子供は、無言のまま、継人の顔をじっと見つめている。 (……?) 継人が首を傾げると、子供はこくりと頷き、無言でついてきた。 店長は、別の子供たちグループの対応に忙しく、継人たちの様子には気づいていない。
継人は、カウンターからお菓子の袋を一つ取り、その子に手渡した。 「はい、どうぞ」 子供は、お菓子を受け取らず、ただ、じっと継人の顔を見上げていた。 そして、何かを深く納得したかのような顔をした後、ふわりと、子供らしい無垢な笑顔になった。
「……ありがとう」 子供はそう言うと、自分のポケットから、キラキラと光る綺麗な石を取り出した。
「これ、お礼」
「え?」 継人は、それを受け取ってしまう。それは、まるで虹を閉じ込めたような、不思議な輝きを持つ石だった。 「うわ、綺麗……。でも、悪いよ、こんなのもらっちゃ」 継人が、慌てて断ろうと顔を上げた時には、すでにその子供の姿はどこにもなく、店の扉が閉まる音だけがした。
(……行っちゃった) 継人は、手の中の石を見つめる。 (子供の無垢な笑顔は、元気をもらうな) そんなことを考えていると、「「トリックオアトリート!」」と、また次のグループがやってきた。
***
夜になった。
「……こんなに、この町に子供いたのか……」 継人は、カウンターに突っ伏してぐったりとしていた。 「お疲れ」 店長が、温かいお茶を出してくれた。
「さっきのグループで終わりだ。よくやったな、バイト君」
「あ……お疲れ様です……」 ようやく、一息つくことができた。
(……疲れた。でも、楽しかったな) 継人は、ガランとした店内を見回し、ふと我に返った。 (……あれ? ってことは、この店のレイアウト、またあのガラクタに戻すのか……?) そう考えてうんざりしていると、背後から、ぬっ、と肩を掴まれた。
「うわっ!?」
「……お疲れ、バイト君」 いつの間に復活したのか、ラキさんが、疲れた顔ながらもニヤニヤと笑って、継人の肩を掴んでいた。
「……逃がさないよ、バイト君」
「え?」
「片付け」 ラキさんは、継人の耳元で、そう囁いた。




