第七十四話
週明け。そろそろ秋も終わり、吐く息が白くなり始める頃。 今日は大学で芝さんの姿を見かけることはなく、講義の合間に『今日寒いね』『風邪ひかないように』といった、簡単な友人としてのメッセージをやり取りしただけだった。
(週末が楽しかった分、なんか変な感じだ) 継人は、浮かれた気分と、どこか締まらない気持ちのまま、バイト先へと向かった。そういえば、商店街のあたりが、やけにカボチャやお化けの装飾で飾られていた気がする。
ガラガラガラ……。
「おはようございます!」 店に入った継人は、目を見開いた。 いつもの光景と、まったく違う。
(あれ……?) 棚を埋め尽くしていたはずの、あの禍々しいガラクタ類――骨とか、呪具っぽい瓶詰めとか――が、綺麗さっぱり片付けられている。 代わりに、そこには(人間の)子供が喜そうな、色とりどりの駄菓子の箱や、安っぽいオモチャが並んでいた。
「……?」 継人がカウンターを見ると、店長はいつもの定位置にいた。 だが、タバコを吸っていない。
「あの、店長……これ、どうしたんですか?」
「ん」 店長は、ジト目で継人を見た。
「今日は、特別なんだ」
「特別?」
継人が首を傾げた、その時だった。
ガラガラガラッ!
「「「トリックオアトリート!!」」」
勢いよく引き戸が開き、魔女やドラキュラに仮装した小学生くらいの子供たちが、ドヤドヤと店になだれ込んできた。
「あ!」 継人は、町の装飾と、この駄菓子と、子供たちの言葉で、ようやく全てに合点がいった。 (そうだ、今日、ハロウィンか! 町を挙げてのイベントだって、大学でポスター見たぞ!)
(でも、なんでこの店に……?) 継人が驚いていると、店長が、すっ、と椅子から立ち上がった。
「はいはい。お菓子ね」
その声は、いつもの気だるげなものではなかった。 表情も、いつもの無表情なジト目ではない。 穏やかで、優しい――「近所のお姉さん」のような顔と態度だった。 「わー! やったー!」 「ここのアメ、美味しいんだよ!」 店長は、手際よく駄菓子を小袋に詰め、子供たち一人一人に手渡していく。
「あ、俺も手伝います!」 継人も、慌ててカウンターに入り、お菓子を配るのを手伝った。 子供たちは、嵐のように礼を言うと、次の店へと走って行った。
「……」 静けさが戻った店で、継人は興奮気味に店長に尋ねた。 「すごいですね! いつもこの時期に、こうやってるんですか?」
「ん。まあな」 店長は、もういつもの気だるげな表情に戻っていた。
「人から見たら空っぽの店だけど、この日だけは、商店街に貸し出して、子供たちが来るんだ」
「にしても、あのガラクタ類、よくこんなに早く模様替えしましたね。俺、昨日まで普通だったの知ってますよ」 すると、店長は、何も言わず、静かに奥の暖簾を指差した。
(?) 継人が、おそるおそる暖簾の裏を覗き込むと。 そこには、ラキさん、くまさん、カネさん、トラさん、ホシさんの五人が、居間でぐったりと疲れ切った顔で突っ伏していた。 (……この人たちが、一晩で全部……) 継人は、静かに暖簾を戻した。




