第七十二話
カチリ、とスマホをテーブルに置き、店長は誰かとの電話を終えた。 「……」 ふう、と深いため息が一つ、タバコの煙と共に吐き出される。
(……あの『飴』の調査も、玉藻前からの情報を待つしかなく、行き詰まりだ) 店長は、雑誌のページを意味もなくめくった。 (バイト君に、あの飴がどんな影響を及ぼすか分からない。だから、店の外にいる時に見守るよう、『あいつ』に依頼したが……) 『順序ってものがあるんですよ!』 さっきの電話口での、妙に芝居がかった言い訳を思い出す。 (……『順序』、か)
そういえば、と店長は思い出す。 (今日、バイト君は『友達』とお芝居だったな。……あいつも、確か芝居が好きだとか言ってたか……)
「あの、お頭」 横で暇そうにしていたラキが、店長の様子を伺うように話しかけてきた。
「今、バイト君のことで電話してましたよね?」
「……まあな」
「そういえばお頭、聞きました?」 ラキは、何か面白いゴシップでも話すように、ニヤニヤしながら続けた。
「今日、バイト君、女の子と『お芝居デート』だって言って、ウキウキしてましたよ」
ピタリ、と店長の雑誌をめくる手が止まった。 ジト目が、ゆっくりとラキに向けられる。
「……ん? 私は『友達』と行くと聞いていたが?」
「え……?」 ラキの顔から、ニヤついた笑みが消えた。 (あ、やべ。あいつ、相手のこと『友達』ってぼかしてたのか。ごめん、バイト君) ラキは慌てて目をそらした。
店長は、ラキのその分かりやすい反応と、さっきの電話の相手の言い訳を、頭の中で結びつけた。
「……ふーん……」 やっと、合点がいった。
「……今日、バイト君、あの狸と出かけてたのか」




