第七十一話
継人と別れ、駅のホーム。 芝は、今送ったばかりのメッセージ(『モエでいいよ』)に対する継人の返信を待ちながら、楽しかった今日一日を思い返していた。 その時、スマホがメッセージの受信とは違う、電話の着信を告げた。
「……はい」 芝は、ホームの柱に寄りかかり、小さな声で電話に出る。
「うん、ひとまず信用はしてもらえてると思うよ」
芝の声から、さっきまでの屈託のない笑顔は消えている。
「お店の事についてはまだ話して……え? 順序ってものがあるんですよ! もぅ、そんなに心配なら自分でやれば良いじゃない」
不満そうに言い返す芝。
「……とくに大学でも、今のところは変わった様子はないよ。……はーい。引き続きね、了解」
通話を切り、ふう、とため息をついた、その瞬間。 間を置かず、また別の電話が鳴った。 芝は、その番号を見て、さっきよりも更に面倒くさそうな顔で、通話ボタンを押した。
「はい。……あ、……まぁ、ぼちぼち? ですかね」 相手は、さっきの電話とは違うようだ。芝の口調が、少しだけ緊張している。
「分かってますよ! あの二人の縁を繋ぎ止めておくための、下準備です!」 芝は、誰かに弁明するように言った。
「たしかに今日は私も楽しみましたけど……」
そこで、芝の声のトーンが変わる。
「え、廻くん、追いかけたんですか? バレません?……危なかった? ……ちょっと、何してんですか!」
電話の向こうの相手が、「ぬらりひょん」であることを思い出し、芝は呆れたように頭を振る。
「……あと、一つ、いいですか?」 芝は、少し言い淀んだ後、ずっと気になっていた事を尋ねた。
「……酒呑さん……本当に、また消えるつもりなんですか?」




