第七話
「は、働く……? ここで、ですか?」 あまりに突飛な申し出に、継人は混乱したまま聞き返した。 店長は「そうだよ」とでも言うように、ジト目のままタバコの煙を吐き出す。
「いいかい、あんた」 店長は気だるげに、しかし有無を言わせぬ口調で説明を始めた。
「この店はな、物々交換で成り立ってる店なんだ 。客は自分の品物を棚に置いていき、代わりに棚にある別の品物を持っていく 。それがここのルールだ」
「ぶ、物々交換……」
「なのに、あんたはモノを納める前に、この店のモン――あの飴玉を消費しちまった 。順番が違うんだよ」 「あ……」 確かに、と継人は口ごもる。
「今からあんたがその紙袋のモンをここに置いてっても、それはもう『交換』じゃなく、ただの『後払い』だ。食べたモンと価値が釣り合うかもわからん。対価にはならない」
店長は灰皿にタバコをトントン、と押し付ける。
「だから、ここで働いて弁償しとくれ 」
「べ、弁償って……! お金なら払います! いくらですか、あの飴!」 継人は慌てて尻ポケットの財布に手をやった。 しかし、店長はそれを冷ややかに制する。
「言ったろ? ここは物々交換の店だ。日本円なんざ価値がねえんだよ」
「そんな……」
「あんたはウチのルールを破っちまったんだ。なら、こちらのルールに従って弁償してもらうのが筋ってモンだろ?」
「う……」 継人は言葉に詰まる。正論、いや、この店のルールがそうなら従うしかないのかもしれない。
「ま、そう怯えんな」 店長は、少しだけ口調を和らげた。
「ちゃんと働いた分はバイト代も出すし、賄いもつけてやろう」
「え、バイト代……」
「どうせ金欠なんだろ。」
「……!」
継人は、元カノに貢ぐためにバイト代を使い込み、さらにプレゼント攻勢で買った品々を思い出す。懐事情が寂しいのは事実だった 。 (確かに、金はねえ……。それに、この店、河童とか見えたり、なんかヤバそうだ。タダで帰してくれるとも思えねえ……) 継人は数秒間ためらったが、観念したように息を吐いた。
「……わかりました。働きます」
「よし」 店長は満足そうに頷いた。
「じゃあ、名前は?」
「あ、廻 継人です」
「まわる?」
「いえ、『めぐる』です。廻 継人 」
「ふうん、めぐる、ね」
店長はジト目のまま継人を見つめ、細く煙を吐き出した。
「じゃあ、よろしくな。――バイト君 」




