表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/114

第六十九話

待ちに待った週末。 継人は、くまさんが持ってきてくれたファッション雑誌を(穴が開くほど)熟読し、手持ちの服の中で一番マシ(・・・)な組み合わせで、芝さんとの待ち合わせの駅に着いた。 (……すげえ人)週末のターミナル駅は、ごった返している。


「廻くーん!」 人混みの中、パッと明るい声がして、芝さんが小走りでやってきた。 大学で会う時とは違い、少しお洒落をした彼女の姿に、継人は思わず息を呑んだ。


「あ……。か、可愛い……」 言葉が、そのまま口に出ていた。

「え〜! ほんと? ありがとう!」 芝さんは、素直に喜ぶと、悪戯っぽく継人の顔を覗き込んだ。

「廻くんって、もしかして、そういうの言い慣れてる人なの?」

「ち、違ーよ! 思わず出ただけ!」 慌てて否定する継人に、芝さんはコロコロと笑う。


劇場へ向かう道すがら、芝さんが今日の舞台について解説してくれた。

「今日のお芝居の劇団ね、去年くらいからテレビでも活躍してる芸能人が所属してるから、今、人気凄いんだよ」

「へえ、そうなんだ」 (……店長やラキさんたちとの会話と違って、全部理解できる……) 継人は、芝さんとの、この「普通」の会話がたまらなく楽しいと感じていた。


お芝居は、有名な古典劇を大胆にパロディにしたコメディ風のものだった。 継人も芝も、周りの目を気にすることなく、腹を抱えて笑った。


「いやー、面白かった!」

「でしょ? あのシーンの解釈、最高じゃない?」 お芝居が終わった後、興奮冷めやらぬ二人は、近くの喫茶店に入り、夢中になって感想を言い合った。 継人がこんなに誰かと趣味の話で盛り上がったのは、いつぶりだろうか。 笑いすぎて、少し涙目になっている芝さんの顔を見ながら、継人はふと、気づいた。


(……あれ? これ、めちゃくちゃ楽しいな)

(笑うタイミングも、面白いと思うポイントも一緒だ)

(……これって)

(もしかして……デート、じゃん)


そう意識した瞬間、さっきまで滑らかに出ていた言葉が、急に詰まった。 どうやら、向こうも同じ事を考えていたらしい。芝さんも、急に目を伏せ、ストローでクリームソーダをかき混ぜ始めた。 途端に、二人の間にぎこちなさが生まれる。


「あ、」 その空気を破ったのは、芝さんだった。

「ご、ごめん! 私、今日、夜は家族と約束があるんだった」

「あ、そ、そうなんだ」 時計を見れば、もう夕方に差しかかっていた。


二人は、ぎこちなさを引きずったまま喫茶店を出て、最寄り駅まで並んで歩く。

「じゃあ、今日はありがとう。すごい楽しかった」

「こ、こちらこそ。誘ってくれて」 別れ際、継人は勇気を出して言った。


「あの……! よかったら、また……会おう?」


芝さんは、一瞬きょとんとし、そして、今日一番の笑顔で頷いた。

「もちろん!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ