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第六十八話

翌日。大学のキャンパスを、継人は友人たちとダラダラと歩いていた。 (週末、何着ていこうかな……) 頭の中は、芝さんとの約束でいっぱいだ。


「おい継人、さっきからニヤニヤしてんぞ。キモい」

「うるせえ」


そんな軽口を叩いていると、向かいから芝さんが女友達と二人で話しながら歩いてくるのが見えた。 (あ) 継人が気づくと、芝さんもこちらに気づき、「あ」という顔をした。そして、隣の友人と会話を続けたまま、継人に向かって、小さく、内緒のように手を振ってくれた。


(……) その仕草に、継人の心臓が、またしても軽く跳ねた。 (……最近、女性に心を掴まれることが多いな) 店長の不意打ちの笑顔といい、芝さんのこういう自然な仕草といい、どうにも心臓に悪い。


「……おい」

「ん?」

「今の子、誰?」

「お前、いつの間に……」 当然、友人たちからの揶揄いの集中砲火を浴び、継人は「違ーよ!」と顔を赤くしながら誤魔化すしかなかった。


***


その日のバイト中。 店には相変わらず客はおらず、継人はカウンターの隅で、本気で悩んでいた。 (舞台鑑賞って、何着てけばいいんだ……?) スマホで「舞台 服装 男」と検索しては、首を捻る。

「やっぱジャケットか? でも、持ってねえし……。こないだ買った、豹柄のスニーカーは……さすがにダメか? いや、でも、差し色としてはアリ……?」


「……」 継人がブツブツと呟いていると、背後から店長が、いつの間にかスマホの画面を覗き込んでいた。

「うわっ!? て、店長、いつの間に……」

「……どこか出かけるの?」

「え? あ、はい。今週末、友達と、お芝居に行くんです」 (芝さんのことは、なんとなく『友達』とぼかしておいた)


「ふーん」 店長は、継人のスマホに表示された奇抜なデザインのシャツの画像と、継人の顔をジト目で見比べた。 「……あんまり、オシャレしすぎないでね」

「え?」 (どういう意味だ? )


継人がその真意を測りかねていると、奥の暖簾から、珍しくラキさんが出てきた。

「聞こえたよ、バイト君。悩んでるねえ!」

「あ、ラキさん」 (そうだ、年上の男性の意見を聞こう) 継人は、暖簾の裏手へとラキさんを引っ張った。


「実は、週末、女の子と出かけるんですけど……服装、どう思います?」

「お! バイト君、隅に置けないねえ! 任せとけ!」 ラキさんがニヤリと笑った、その時。

「ん? ファッション談義?僕も混ぜてよ」

「あーしも」

「騒がしいぞ、お前たち」 いつの間にか、カネさん、トラさん、ホシさんまでが集まってきていた。


「舞台鑑賞だろ? やっぱ毛皮だろ! 狼の!」とラキさん。

「強そうに見えるのが一番だよ。肩当てとかどうかな」とカネさん。

「あーし? キラキラしてりゃいいんじゃね? 魚の鱗とか」とホシさん。

「TPOをわきまえろ。舞台鑑賞なら、せめて正装だ。烏帽子はいるだろう」とトラさん。


(……ダメだこいつら!) 全員のセンスが、人間界から尖りすぎている。継人が絶望しかけた、その時。


「あ、廻くん」 ひょっこり顔を出したのは、くまさんだった。

「悩んでるなら……店長、これ全然読まずに積んでるから」 くまさんが差し出してきたのは、人間の、ごく普通の男性ファッション雑誌だった。

「こういうのにしたら?」

「くまさん……!」 継人は、その雑誌を、まるで聖書かのように、ありがたく受け取った。

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