表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/114

第六十七話

バイト中だというのに、継人の口元は、さっきからどうにも緩みっぱなしだった。 (……今週末、芝さんと舞台か) 昨日の芝さんとのやり取りを思い出す。彼女と別れてから、あんな風に「人間」の女性と約束を取り付けるのは久しぶりだ。 『私は、そういうの好きだけどな』 彼女の屈託のない笑顔が脳裏に浮かび、継人は「にへら~」と、我ながら締りのない顔になっている自覚があった。


「……」 カウンターの定位置でタバコをふかしていた店長は、雑誌に目を落としたまま、チラリ、と継人を見た。 (……なんだ、今日のバイト君。さっきからニヤニヤして。) いつもの様子と違うことは分かるが、何が原因で変なのかまでは、さすがの店長にも分からなかった。


ガラガラガラ……。


その時、古びた引き戸の開く音がした。

「いらっしゃいませ!」 継人は、ニヤけていた顔を慌てて引き締め、声を張り上げる。


……だが。 扉は開いたものの、誰も入ってくる気配がない。 「あれ?」 継人は首を傾げる。外の光は差し込んでいるが、客の姿はどこにも見えなかった。 (空耳か? いや、今、確かに……)


継人が、助けを求めるように店長を見たが、店長は相変わらず落ち着いたもので、雑誌のページをめくっているだけだった。 (店長が動かないってことは、客じゃないのか?)


継人が「店長、お客さん、来てます?」と聞こうとした、その瞬間。 「!」 継人は、目を見開いた。


棚に並んでいた商品の一つ――あの死神が置いていったという古びた蝋燭が、ふわり、と宙に浮いたのだ。


蝋燭は、そのままスーッと継人の頭上を通り過ぎ、レジカウンターの方へ飛んでいく。 そして、棚の別の場所で、カラン、と何か硬いものが置かれる音がした。 その後、棚をコンコン、と二度叩くような音が聞こえたかと思うと、誰もいないはずの玄関の引き戸が、ガラガラ……ピシャリ、と閉まった。


「……」 継人は、今の光景がまったく理解できず、口をパクパクさせたまま固まっていた。 (浮いた……。蝋燭が……消えた?)


「い、い、今……! 店長! いまの、なんですか!?」 パニックになって叫ぶ継人に、店長はタバコの煙をふう、と吐き出した。

「安心しろ」

「いや、安心できませんって!」

「透明人間だよ」

「……はい?」


「透明人間が、蝋燭と何かを交換していっただけだ」 店長は、気のない声で答える。

「と、透明人間!? だって、姿も気配も、何も……見えなかったのに、なんで分かるんですか!?」

「ん」 店長は、自分の鼻先を、ジト目のままトントン、と叩いた。


「匂いがした」

「匂い!?」

「ああ。……目で見ても分からない事は多いぞ、バイト君」 店長は、そう言って、また雑誌に視線を落とした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ