第六十六話
学食の喧騒の中、二人の会話は弾んでいた。継人は、昨日の出来事を思い出し、芝の持ち物(鍵だったか)に目をやった。
「そういえば」と継人が切り出す。
「昨日見つけたあの鍵のチャーム、可愛いですね。狸の」
「あ、あれですか?」 芝は、嬉しそうに目を細めた。
「気づきました? 私、狸、好きなんです。なんか、こう……見てると癒やされません? あの、ぽっこりしたお腹とか」
「あー、分かります(笑)」
「廻くんは、趣味とかあるんですか?」
「俺ですか? うーん、服とか見るのは好きですけど……趣味って言われると……。芝さんは?」
「私、舞台とかお芝居を見るのが好きなんです」
「舞台、ですか」 継人は、首を傾げた。
「俺、多分、一回も見たことないかも……」
「えー! もったいないですよ!」 芝は、大袈裟に身を乗り出してきた。
「すごく面白いのに。……あ、そうだ」 芝は、何かを思いついたように、パン、と手を打った。
「今度、一緒に見ませんか?」
「え、いいんですか?」
「(わざとらしく)実は、今週末に見に行こうと思ってた舞台があるんですけど……」 芝は、少し困ったように眉を下げる。
「一緒に行くはずの友達に、急に彼氏ができて、すっぽかされちゃったんですよ!」
「あ……」
「『ごめん、彼氏とデートになった!』とか言って。ひどくないですか?」 芝は、怒ったフリをしながらも、面白おかしく肩をすくめてみせた。
その様子に、継人は思わず笑ってしまった。
「あはは、それは……なんというか、タイミングが(笑)」
「でしょ? チケット一枚、無駄になっちゃうのもアレだし……もしよかったら、廻くん、どうかなって」
「(笑いながら)なるほど。……でも、俺なんかでいいんですか? 舞台とか、全然詳しくないですけど」
「むしろ、そういう人にこそ見てほしいです! きっとハマりますよ!」
芝の熱意に押され、継人も興味が湧いてきた。 (……なんだか、楽しそうだな)
「そこまで言われると、興味出てきました。……じゃあ、ぜひ。お願いします」
「やった! 決まりですね!」
***
その日は、学食でそのまま別れることになった。
「じゃあ、私、次の授業あるんで」
「あ、はい。ごちそうさまでした」 食器を返却口に戻し、出口へと向かう。
「じゃあ、週末、楽しみにしてますね!」 芝が、笑顔で手を振る。
「はい! 俺も楽しみにしてます!」 継人も、久しぶりの「普通の」週末の予定に、自然と笑みがこぼれていた。




