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店長は人を騙さない(と、言っていた)  作者: あかはる


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第六十二話

継人が大学へ向かった後。 店長は、継人から受け取ったクッキーの紙袋を手に、店の裏、ダイニングへと戻った。 トラがすぐにラキたちを呼び集め、テーブルの上には個包装のクッキーが広げられた。


(いま)


「お、バイト君からの差し入れ? やるじゃん!」

「わー! 美味しそう!」

「カシラ、これ食べていいんすか?」


テーブルを囲むのは、ラキ、くま、ホシ、カネ、トラの五人。 そして、その輪の中心で、店長は無言でクッキーの包装を破り、黙々とそれを口に運んでいた。


「あ、これ美味いな、くま!」

「わっ! ラキ、それあーしのだから!」

「いっぱいあるんだから、ケンカしないの」

「カネ、お前デカいんだから一個で我慢しろよ」

「ええ〜、僕だって甘いの好きなのに……」


部下たちがギャアギャアと騒ぎながら楽しく食べるのを、店長は(クッキーを咀嚼しながら)ジト目で見ている。


(むかしむかし)


―――かつて、大江山を根城にしていた頃。 朝廷からの遣いが、手土産の極上の甘物を酒呑童子の前に差し出した。 酒呑童子は、その菓子折りを尊大な態度で見下ろし、蹴り飛ばした。


「……こんな子供騙しで、この酒呑童子が懐柔できると思われてるとは。舐められたもんだな!」


その周りを、茨木童子たちが取り囲み、震え上がる遣いを脅す。

「おい人間。手土産が気に食わねえってよ、お頭が」

「命が惜しけりゃ、菓子じゃなく酒持って出直しな」


(むかしむかし)


「おい!!」 酒呑童子の怒鳴り声が、ねぐらに響き渡る。

「酒が切れたぞ! さっさと奪い取ってこい!」


その怒りに触れぬよう、部下たちは「は、はい!」と怯え、いそいそと人里へ獲物を探しに出ていく。


(いま)


ダイニングテーブル。 クッキーを食べ終え、コーヒーを飲んで一息ついた店長は、いつもの癖でタバコを取り出し、火をつけようとした。 その瞬間。


「「「「「あ」」」」」


部下全員の視線が、店長タバコに突き刺さった。


「カシラ?」 「お頭」 「店長」 「あのさぁ……」


「……ここは、禁煙だって、いつも言ってるじゃないですか!」 くまさんが、代表してビシッと言う。

「煙たいんだよ!」とラキが続き、

「髪に匂いがつくっしょ」とホシが文句を言う。


「……」 店長は、部下全員からの無言の圧力に、ジト目でタバコを箱に戻すと、すごすごと椅子から立ち上がり、一人、裏口から外へ吸いに出ていった。


***


今まで、何人かの人間と関わってきた。 その度に、店長(酒呑童子)は、棘が丸くなるように、少しずつ柔らかくなっていった。


部下たちは、はじめのうちこそ、 「あの酒呑童子が!?」 「お頭が、あんな……」 と戸惑っていた。


だが、どんなお頭であろうと、自分たちが「着いていく」と決めたお頭だ。 彼らは、今の(人間に振り回され、部下に禁煙を注意され、たまに泣き暴れる)お頭のことも、大好きだった。

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