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第五十七話

(……) 見慣れない天井だ。 継人は、硬い布団の上で目を覚ました。ズキ、と鈍く痛む頭を押さえながら、昨夜の出来事を必死に思い返す。

(そうだ、飲み会で……友だちが……『誑かした』……?)


そこから、記憶が一気に蘇る。 駅のベンチ。カネさんの広い背中。店に担ぎ込まれ、布団に寝かされたこと。 そして―――。


(うわあああああっ!) 継人は、布団の中で頭を抱えた。

(トイレ探して迷子になって! 暗闇の廊下で! 店長に!) 極めつけは、助けに来てくれた店長が、よれたスウェットの「パジャマ」姿だったこと。

(バイト先に泊めてもらった上に、店長のプライベートな格好まで見てしまった……!) 色々な意味で「やらかした」という思いで、継人は羞恥と自己嫌悪で死にそうになりながら、勢いよく起き上がった。


「……おはよう、バイト君」 丁度そのタイミングで、居間の入り口に店長が立っていた。いつものダボっとした服に戻っている。

「あ、お、おはようございます! 昨日は、本当にすみません!」

「いいから。朝ごはんできてる。食べていけ」


「え?」 継人は、店長に促されるまま、布団部屋(居間)から廊下に出た。 店長は、昨日継人が迷い込んだ暗い廊下とは逆の、御手洗の札がかかった扉の、さらに奥を指差す。 昨夜はまったく気づかなかったが、そこにはダイニングキッチンへと続く、もう一つの空間が広がっていた。


ダイニングテーブルには、湯気の立つご飯と味噌汁、焼き魚、卵焼きという、正に「和の朝食」が並んでいた。 すでに席には二人の人影がある。

「おはよう、バイト君。二日酔い大丈夫?」 食後のお茶を飲んでいたラキさんが、ニヤニヤしながら手を振った。

「はよ〜バイト君」 その向かいで、ホシさんがご飯をかき込んでいる。


店長は、朝食には加わらず、ダイニングの隅にある自分の椅子(?)に腰掛け、コーヒーを飲みながら新聞を広げた。 (あ、タバコ吸ってない) 継人が意外に思っていると(後で知るが、ダイニングは「煙たい」という部下たちの強い希望で禁煙となってるらしい)、ラキさんが尋ねてきた。


「昨日の夜、大丈夫だった?」

「お騒がせして、本当に申し訳ありませんでした!」 継人は、ラキさんとホシさんに向かって、テーブルに頭がつきそうな勢いで深々と陳謝した。


すると、新聞から目を上げないまま、店長がボソリと言った。

「……トイレと逆の方に、ずんずん歩き出してたけどな」


「「え!? マジで!?」」 ラキさんとホシさんの声がハモった。

「バイト君、大丈夫だったの!?」


「あ、はい……」 継人は、パジャマ姿の店長を思い出し、顔を引きつらせながら答えた。

「店長に助けてもらったんで、大丈夫でした(なんとかトイレには間に合いました)」


「へえ」 ホシさんは、卵焼きを箸でつまみながら、興味なさそうに言った。

「ラッキーだったね。……食べられなくて」


「……え?」 継人の動きが止まる。

「こら、ホシ。怖がらせんなって」 ラキさんが、笑いながらホシさんを嗜める。 店長は、新聞の向こうで、その二人のやり取りを(恐らく)微笑みながら見ている気配がした。


(食べられなくて……) 継人は、昨夜のあの、光さえ吸い込む暗闇の廊下を思い出した。 (……洒落にならんな) 冷や汗が、背中をツーッと伝った。

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