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店長は人を騙さない(と、言っていた)  作者: あかはる


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第五十五話

(……寒い) 硬い感触と、騒々しい車の音で目が覚めた。 寝たフリをしたはずが、どうやら本当に寝ていたらしい。


目を開けると、そこは見慣れた居酒屋の座敷ではなく、駅前のロータリーのベンチだった。

「……は?」 慌ててスマホを見ると、とっくに終電の時間を超えている。 (あいつら……ここに俺を放置して帰りやがった!) 幸い、財布もスマホも無事だった。すぐ近くに交番の明かりが見えるから、さすがにここで粗相をするヤツはいなかったんだろう。


酒はまだ残っている。頭がガンガンするが、歩けないほどではない。 (どうしたものか……) タクシーで帰るか? いや、金が勿体ない。 途方に暮れてため息をついた、その時だった。


「……え?」 信じられない物を見る目で、こちらに近づいてくる巨大な人影があった。

「……継人君? どうしたの、こんなところで」 カネさんだった。


「あ、カネさ……」 呂律が回らない口で、飲み会で寝てしまったこと、起きたらここにいたことを必死に説明しようとする。

「んー……」 カネさんは、その強面の顔で、うーん、と首を傾げた。

「ごめん、何言ってるか、よく分からないや。……とりあえず、お店行こう」

「え?」

「いいから」 カネさんは、継人の前にしゃがみ込み、広い背中を向けた。

「おんぶ」

「いや、歩けま……」

「いいから」 有無を言わさぬ圧に、継人は素直にその背中に負ぶわれた。


カネさんの背中に揺られながら、夜道を歩く。 その振動で、さっきの飲み会での記憶が蘇ってきた。 (あ……!) そうだ。あの男?女?。『誑かした』と言った。 (店長に、話さなきゃ……!)


「かね、さん! あの、てんちょ、に……」

「ん?」

「きょ、のみかい、で……へんなやつ、が……」 口にしようとするが、舌がもつれてまともな言葉にならない。 カネさんは、呆れたように、しかし優しく言った。

「継人君。今喋ると、舌噛むよ」


***


ガラガラガラ……。 店に着き、カネさんが扉を開ける。奥の居間には明かりがついていた。

「あれ? カネ? 帰ったんじゃないの?」 ラキさんの声がする。

「途中で拾った」 カネさんは、おんぶしている継人をラキさんに見せる。

「うわ、バイト君!? ぐでんぐでんじゃん!」


ラキさんとカネさんは、慣れた手つきで暖簾の裏の居間に布団を引いてくれた。 二人羽織りのようにして継人を布団に寝かせると、口々に声をかけてくれる。

「バイト君! トイレはあっちね!」

「水! これね!」

「あと、奥の部屋には、絶対行くなよ! いいね!」


その、ラキさんたちの声を最後に、継人の意識は再び眠りに落ちた。


***


どれくらい経っただろうか。 尿意で、継人は目を覚ました。 (……トイレ) 布団から這い出ると、店はシンと静まり返っている。 ラキさんたちの声が、ぼんやりと頭に響く。


(『トイレはあっち』って、言ってたな) 継人は、ラキさんが指差した(気がする)方向を見た。 そして、無意識に――あるいは、何か別の好奇心に引かれるように。


言われた方向とは、逆へと進んだ。

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