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店長は人を騙さない(と、言っていた)  作者: あかはる


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第四十九話

ゴーッ、と地鳴りのような風の音が、古い店の引き戸を揺らしている。 今日は、継人がシフトに入っていない日。 外は大型の台風が来ているらしく、横殴りの雨がガラスを叩いていた。


こんな日に客が来るはずもなく、店番は店長とラキの二人だけだった。 店長は定位置で分厚い雑誌をめくり、ラキはカウンターの隅で、手持ち無沙汰に外の嵐を眺めている。


「……」 ラキは、雑誌を読む店長の横顔を盗み見た。

「……最近、バイト君がいると楽しそうですよね、お頭」

「そうか?」 店長は、雑誌から目を離さないまま、気のない返事をした。


「楽しそうですよ。……まあ、そのせいで、ちょっと面倒なことにもなってますけど」

「ん?」

「一応、報告しときますね」 ラキは、カウンターに肘をつきながら言った。

「『あそこで人間が働いてる』って話、そろそろ広まってきてて。さっき、ぬらの婆さんから確認の連絡来てます」

「……」 店長の雑誌をめくる手が、ピタリと止まった。


「『酒呑童子が人間の小僧を匿ってるそうじゃないか』って。……とりあえず、今は無視してますけど」

「そうだな」 店長は、ふう、とタバコの煙を吐き出した。

「あのババアが、本気で腰を上げる前に『アレ(飴玉)』を解決できりゃあ問題ない。それでいい」

「りょーかいです」


ラキは、何かを思い出したように、ニヤリと笑った。 「あ、あと。『最近、ちっとも構ってくれなくて寂しい』とも言ってましたよ、婆さん」

「……ふん」 店長は、その言葉を鼻で笑い飛ばした。

「それは、お前らもだろ」 店長は、ジト目でラキを指差す。

「……構ってやれなくて、ごめんな」

「えっ」


ラキは、思わぬ言葉に素で驚いた。

(……うわ、謝った) 昔のお頭なら、絶対に口にしなかった言葉だ。

(……確かにお頭、最近、妙に柔らかくなってきてるな) ラキは、継人が店長に「ギャップがあって可愛い」などと吹き込んだ一件を思い出し、苦笑いしそうになるのをこらえた。

(まあ、悪い変化じゃない) ラキは、心の中でバイト君に感謝した。


「……にしても、暇ですね、お頭。台風、直撃っぽいし」

「こういう時間も楽しめ」 店長は、雑誌を閉じると、自分のタバコの箱をラキの方へスッと滑らせた。 「……吸うか?」


ラキは、一瞬目を丸くしたが、嬉しそうに口角を上げた。

「……じゃあ、一本もらいます」


カチリ、カチリ、と二つのライターの音が響く。 店内に、二筋の紫煙が立ちのぼる。 外の荒れ狂う雨風の音だけが、BGMのように響き続ける。


やがて、その二人のタバコの火が同時に消えた時、長い一日の営業時間は終わった。

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