第三十九話
ホシさんと二人、黙々と片付けを続けて数時間が経った。 倒れていた棚はすべて起こされ、床に散らばっていた無数のガラクタ(?)も、継人の背の高さを活かして元の高い場所へと戻っていく。ある程度、店の体裁が整ってきた頃だった。
「ふぅ……」 ホシさんが、額の汗を拭いながら、継人を見上げて笑った 。
「助かったわ、バイト君。あーし、チビだから高いとこの作業、マジでできなくて困ってたんだよね。ありがとう 」
「いえ、役に立てて良かったです 」 継人が笑顔を返すと、店の奥の暖簾が、静かにめくれた。
「……」 店長だった。 昨日から不貞寝していると聞いていたが、ようやく出てきたらしい。 その目元は、まだ少し赤く腫れぼったいが、いつもの気だるげなジト目に戻っていた 。
店長は、きれいに片付いた店内を見回し、やがて継人の方を見た。
「……バイト君。昨日は、ごめんね 」
「あ、いえ……」
「これ」 店長は、懐から茶封筒を取り出し、継人に差し出した。
「今日の掃除分、色つけといたから 」
「え、いいのに! 手伝いに来ただけですよ!」
「いいから、取っとけ」
継人が慌てて受け取ると、隣で聞いていたホシさんがすかさず声を上げた。
「カシラ! あーしは? 」
「お前たちには、後でちゃんと渡してやる 」 店長は、ホシさんの頭をくしゃりと撫でる。 その横顔は、昨日あれだけ泣き暴れたのが嘘のように、いくらかスッキリした顔をしていた 。
「あの、店長。明日は、店、開店するんですか? 」 継人が尋ねると、ホシさんが「え〜! 開けるんすかぁ? 」と不満そうな声を上げた。 店長は、そのホシさんの頭を、もう一度優しく撫でながら 、ポツリと言った。
「……この店を、必要としてる誰かがいるかもしれないからな 」




