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第三十三話

「あー、それな! マジでそれ!」

「あの時の恨まれっぷりはすごかったもんねえ!」


ラキさんとカネさんは、腹を抱えたり、強面の顔をくしゃくしゃにしたりして、カラカラと楽しそうに笑い続けている。 (鬼……。酒呑童子……) 継人は、二人の笑い声を聞きながら、以前店長が放った「冗談(?)」を思い出していた。 『私はな、実は酒呑童子だ』 (あれ、もしかして……冗談じゃ、なかったのか……?)


継人が二人の笑い声と「鬼」という単語の間で思考を固まらせていると。 ガラガラ……。 二人の笑い声をかき消すように、店の引き戸が開いた。


「……」


いつものジト目。いつもの長い前髪。いつもの気だるげな表情。 店長が、タバコの煙を細く吐き出しながら、そこに立っていた。


「「あっ」」 さっきまで大笑いしていたラキさんとカネさんの顔が、一瞬で引きつる。 (やばい) 二人の顔には、はっきりとそう書いてあった。


店長は、騒ぎの元凶である二人をジロリと睨みつけ、次いで、その隣にいる継人の姿を認めた。

「……なんだ。客かと思ったら、バイト君か」 店長はそう呟くと、再び視線を二人へと戻す。


「……随分と、楽しそうじゃないか。カネ、茨木いばらき」 (いばらき!? ラキさんって、茨木……童子!?) 継人が新たな衝撃を受けていると、店長はゆっくりと続けた。

「私も混ぜてもらおうか? その話」


「ひっ!」 ラキさんが、情けない声を上げた。 カネさんが、慌てて前に出て、その巨体で継人をかばうようにしながら作り笑いを浮かべる。

「あ、あはは! 店長! いやあ、今、ちょうど終わっちゃったとこなんで! ね、ラキ!」

「そ、そうそう! 終わった終わった!」

「僕たち、これから店開ける準備、急いで進めますんで!」 カネさんはそう言うと、ラキさんの首根っこを掴み、継人に「じゃあね、継人くん!」と笑顔だけを残して、店長の横をすり抜けて店の中へと逃げ込んでいった。


「……」 店長は、慌てて店内に消えていく大男二人を、冷たいジト目で見送っていた。 やがて、その視線が継人に戻ってくる。


「……で?」

「あ、はい」

「朝からどうした? 入るか?」 いつもと変わらない、気だるげな誘い。 だが、継人の頭の中は、さっきカネさんが言った「鬼」という言葉でいっぱいだった。


(鬼。鬼。鬼って言った。酒呑童子。茨木童子。カネ……金熊童子? くまは熊童子? まさか……) 「……あ〜……えーと、」 継人がどう返事したものか迷っていると、店長は「あぁ」と何かを察したように言った。


「大学、休講になったんだろ」

「―――っ!?」


継人は、思考が停止した。 (なんで、それを!?) 今朝、大学の掲示板で知ったばかりだ。誰にも言っていない。 目の前の店長は、相変わらずジト目でこちらを見ている。


(……この人、やっぱり、ワケがわからない) 「鬼」なのかもしれないという恐怖。 だが、それ以上に、「なんでこの人は色々知ってるんだ?」という、抑えきれない好奇心が勝ってしまった。


「……お邪魔、します」 継人は、まるで何かに引き寄せられるように、店の中へと一歩、足を踏み入れた。

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