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第二十九話

結局、くまさんと二人で店番をした日は、あのマントの男性客が来ただけで、あとは静かに時間が過ぎていった。

「……そろそろ、あがりかな」 外が薄暗くなり始めた頃、くまさんがそう言った。 継人は「お疲れ様です」とノートパソコンをリュックにしまい、帰り支度を始める。


その時、継人はふと、この店に来た初日のことを思い出した。

「そういえば、くまさん」

「ん? なあに、廻くん」

「俺がここに来た最初の日、店長に呼ばれて出てきましたよね」

「あ、うん。覚えてるよ。びっくりした」

「あの時、店長が俺の食べた『飴の包み紙』を見せて、『見えるか?』って聞いてたじゃないですか。……くまさん、あの時『何もない』って言ってましたよね?」


それは、ずっと継人の中で引っかかっていた疑問の一つだった。 くまさんは、継人のその言葉に、一瞬きょとんとした。だが、すぐに何かに思い至ったように、ポン、と手を打った。


「……なるほど」 くまさんは、継人に向かってではなく、まるで自分自身に言い聞かせるように、小さな声で呟いた。

「『高位存在』の痕跡は、お頭ですら認識が難しかったんだ……。だから、お頭はあの時、私にも見えるかどうかで、影響範囲を……」


「え?」 (まただ) 継人は、その独り言を聞き逃さなかったが、核心には触れさせてもらえない。 ここでも、あの『飴玉』のことは、うまくはぐらかされてしまった。 だが、継人は、目の前のくまさんの真剣な横顔を見て、これ以上追求するのはやめよう、と決めた。この人も、店長と同じで、何か理由があって話せないのだろう。


「……じゃあ、俺、これで失礼します」

「あ、うん! お疲れ様、廻くん!」 継人はリュックを背負い、店の出口へ向かう。

「あの、くまさんも今から帰るなら、途中まで……駅まで送りますよ」 なんとなく、さっきのステッキの一件で守ってくれようとした礼も言いたかった。 すると、くまさんは嬉しそうに笑ったが、申し訳なさそうに首を横に振った。


「ありがとう、廻くん。でも、私、今日はここに泊まりなんだ」

「え、泊まり?」

「うん。店長が出張の時は、誰か一人はここに詰めてないと、万が一の時に対応できないから」

「そうなんですね……」

「あ!」 くまさんは、何かを思いついたように言った。

「逆に、私が駅まで送ろうか? 夜道、危ないし」

「えっ!」


その申し出は、継人にとってまったくの予想外だった。 (いや、別に危なくねえし! つーか、バイト先に送ってもらうとか!)

「だ、大丈夫です! すぐそこなんで! お疲れ様でした!」 継人は、思わず反射的に、勢いよく断ってしまった。


ガラガラ、と引き戸を閉め、一人で夜道を歩き出す。 (……あ) 少し歩いてから、継人は足を止めた。 (……今の、断る必要なかったか?) くまさんは、ラキさんや店長と違って、色々(教えてくれないことはあっても)ちゃんと話してくれる人だ。 (もう少しくまさんと喋りたかった、かも……) せっかくの機会を自分から手放してしまった気がして、継人は「勿体もったいないことしたかな」と、少しだけ後悔しながら駅へと向かった。

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