第二十六話
今日もまた、珍しく客が来た。 カラカラ、と乾いた羽音を立てて店に入ってきたのは、手のひらほどの大きさの、背中に羽を生やした妖精だった 。その小さな体で、自分よりも大きな(と言っても、継人の拳ほどの)毒々しい色のキノコを必死に抱えている 。
「いらっしゃいませ」 継人も、もうすっかり慣れたもので、慌てず騒がず、笑顔で応対する。
「あ、あの……寒くなって来たから、何か防寒具が欲しくて……」 妖精は、キノコを棚に置くと、か細い声で言った。
妖精は小さな体で棚を飛び回り、品定めを始める。 やがて、その目が棚の一点に釘付けになった。 昨日、たけまるさんが放り投げていった、あの片方の靴下だ 。
「こ、これ! これ、いいわ!」 妖精は、その靴下に興奮気味に飛びついた。
「マフラーにちょうどいい大きさ!」 (いや、靴下だけど……) 継人は心の中でツッコミを入れる。
妖精は、その靴下に顔をうずめると、クンクンと匂いを嗅ぎ、さらに喜んだ。
「すごい! 鬼みたいに強そうな匂いもする! これがあれば、他の村の妖精たちも、食料を奪いに攻めてこないわ!」 そう言って、彼女は嬉しそうに靴下を抱え、店を飛び去っていった。
「……」 継人は、その後ろ姿を見送りながら、ぼんやりと思った。 (意外に、妖精の世界も殺伐としてるんだな……)
ふと視線を感じて振り返ると、店長が、いつもの雑誌から顔を上げ、じっと継人のことを見ていた 。 最近、こういうことが多い。 継人が客(人間以外)の対応をしていると、店長は必ず、黙ってその様子を観察している。
(……これは、接客態度の監視なんだろうか) それとも、と継人は思う。 (俺が食べた、あの『飴玉』の影響がどう出てるか、その観察……?)
どちらにせよ、店長が自分に注意を向けているこの瞬間は、多少なりとも話すチャンスが生まれる。継人にとっては、それが少し嬉しかった 。
「あ、あの……店長」 継人は、カウンターに戻りながら声をかける。
「さっきの接客、どうでした?」
店長は、継人の顔をジト目で見つめると、ふい、と視線を雑誌に戻した。
「ん。……うん、接客してた」
「……」 (だから、その、どうだったのかを……) 今日も、良く分からない答えが返ってきただけだった 。




