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第二十五話

豪快なたけまるさんが嵐のように去った、まさにその直後だった。 継人が(この店長も、ああやって楽しそうに笑うんだな……)と、カウンターの奥で一人、ぼんやりと余韻に浸っていると。


ドタドタドタッ!


店の奥、あの『従業員用』の暖簾の向こうから、誰かが廊下を全力で走ってくる、慌ただしい足音が響いた。


バサッ!と暖簾が激しくめくれ上がり、ラキが文字通り転がり込むように店に飛び出してきた。

「おたけさん!!」


だが、彼の必死の叫びに応える者はいない。 店の中には、カウンターの定位置に戻って再び雑誌に目を落とした店長と、何事かと目を丸くしている継人しか残っていなかった。

「……っ! ちくしょう、間に合わなかったか!」 ラキは本気で悔しそうに、自分の髪をガシガシとかきむしっている。


「……何しに来た、い……ラキ」 店長は、読み耽っていた雑誌から顔も上げずに、気だるげに尋ねた。 (今、一瞬「い」って言いかけたな……) 継人は気づいたが、黙っていた。


「いや、今! おたけさんの声が聞こえたんで、慌てて来たんですよ! まだいますよね!?」 ラキが必死の形相で店長に詰め寄る。 継人が、おずおずと口を挟んだ。

「あ、あの、ラキさん。たけまるさんなら、ついさっき……」

「もう帰ったよ」 継人の言葉を遮り、店長があっさりと言い放った。


「そんなぁ!」 ラキは膝から崩れ落ちそうになり、先ほどよりも尚更なおさら悔しがった。


店長は、そのラキの姿をジト目で見つめていたが、やがて雑誌をパタンと閉じ、不意に声を低くした。 「……それより、調べはついたのか?」


「―――あっ!」 ラキは、今しがたまでの恋する男の顔から一転、部下の(?)顔に戻り、ビシッと背筋を伸ばした。

「そ、それが、今まさに! すぐ報告のために戻ります!」 大慌てできびすを返し、ラキは再びドタドタと騒がしい足音を残して、暖簾の裏へと消えていった。


嵐のような時間が過ぎ去り、店にはまた静寂が戻る。 継人は、さっきのラキの慌てぶりを思い出しながら、店長に尋ねた。

「ラキさん、たけまるさんのこと、『おたけさん』って呼んでるんですね」


「ん」 店長は、再び雑誌のページを開きながら、事もなげに言った。


「あいつ、たけまるに惚れてるからな」


「え……」 (……だからあんなに必死だったのか) 継人は納得すると同時に、呆れたように店長に言った。 「……知ってるなら、もうちょっと引き止めてあげればいいのに」


「……」 店長は、継人の言葉に、雑誌から顔を上げた。 そして、タバコを口から離し、本気で意外だというように目を丸くした。

「……そうか」 今更、そんなことに気づいた、という顔だった。


(うわ……) 継人は、その店長の反応を見て、さっきのたけまるの言葉を思い出していた。 『こいつ(店長)、昔っから、こう、ちょっと抜けてるとこあるからよ』 (……たけまるさんが言ってた「抜けてるところ」って、こういうところのことか) 継人は、一人静かに納得した。

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