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第二十四話

ガラガラガラ……。 店長の言葉が終わるのと同時に開いた引き戸の先に、一人の女性が立っていた。 店長とはまったく違うタイプ。背が高く、無造作に結わえた長い髪が荒々しく揺れている。快活かいかつそうな、強い光を宿した瞳。豪快、という言葉がそのまま服を着て歩いているような女性だった。


「よう。言ったそばから来てやったぜ、酒呑」

「……早すぎだろ、たけまる」 店長が呆れたようにタバコの煙を吐き出す。


(たけまる……? ) 継人は、さっきスマホの画面で見えた名前と、目の前の人物を結びつけて、息を呑んだ。 (いや、その名前で……女なの!?)


「お?」 その豪快な女性――たけまるは、カウンターの中で固まっている継人に気づき、ニヤリと笑うと大股で近づいてきた。

「こいつか? 話のバイトってのは」

「!」 継人が身構える間もなく、たけまるは継人の顔を覗き込むようにして、矢継ぎ早に質問を浴びせ始めた。


「なんでお前、こんなとこでバイトしてんだ?」

「え、あ、それは……」

「つーか、お前、ほんとに人間か? 匂いはそうだが……」

「は、はい、人間です!」

「ふーん。まあいい。で? こいつ(店長)に振り回されて大変じゃねえか?」

「え?」

「こいつ(店長)、昔っから、こう、ちょっと抜けてるとこあるからよ。お前、気をつけろよ?」

「は、はあ……」


質問攻めにあい、継人はフラフラになっていた。 その間も、店長は我関せずといった顔で、カウンターの定位置に座り直し、タバコをふかしながらこちらを眺めている。


「ま、いいか」 たけまるは、ひとしきり継人を品定めすると、興味を失ったように店長に向き直った。

「久しぶりだな、店番なんて」

「あんたがサボるからだろ」

「はは、違えねえ」 二人は、継人には分からない、どこか懐かしい雰囲気で昔話を始めた。


(……なんか、楽しそうだな) 継人は、気まずさを感じながらも、二人の様子を眺めていた。

「あの……お二人は、幼馴染か何かですか?」 思わず尋ねると、たけまるが振り返り、豪快に笑い飛ばした。

「ん? ああ。まあ、腐れ縁だな!」


(くされえん……) 店長は、特に否定もせず、タバコの煙をくゆらせている。

「あ、あの、お茶、入れて来ますね!」 継人は、この場にいてはいけない気がして、そそくさと暖簾のれんの奥へ引っ込もうとした。


「お、気が利くな」 たけまるがそう言ったかと思うと、彼女はすぐに立ち上がった。

「んじゃ、顔も見たし、俺は帰るわ」

「あ?」 お茶の準備をしようとしていた継人が、拍子抜けして振り返る。店長も、心底呆れた顔をしていた。

「……ほんとに見に来ただけかよ」


「おう。じゃあな」

「あ、待て」 店長が、帰ろうとするたけまるを呼び止める。

「ルールだろ。帰る前になんか交換していけ」

「げ」 たけまるは、分かりやすく顔をしかめた。

「しまった。今日、何も持って来てねぇ」

「……」 店長のジト目が、無言で「置いていけ」と圧をかける。

「あー、もう! しゃあねえな!」 たけまるは、履いていたブーツを脱ぐと、おもむろに自分の靴下を片方脱ぎ捨てた。


(ええっ!? 靴下!?) 継人がドン引きする中、たけまるはその靴下を適当な棚に放り込む。

「これでいいだろ!」 そして、棚に並んでいたガラクタの中から、ポケットに入りそうなほど小さな真鍮しんちゅうのコンパスをひょいと掴み取った。

「じゃあな!」 嵐のように、たけまるは店を出ていった。


「……」 後に残されたのは、片方の靴下と、静寂と、タバコの煙。 継人は、恐る恐る店長を盗み見た。 店長は、タバコをくゆらせながら、たけまるが出ていった戸口を眺めている。その横顔は、いつもより、ほんの少しだけ……嬉しそうに見えた。


(……友達、なんだな) 継人は、さっきまでの騒がしさとのギャップに、少しだけ心が温かくなるのを感じた。 (この人も、ああやって友達と会って、楽しい時間を持つ人なんだ。……だったら、やっぱり、悪い人じゃ……ないのかな)

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