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第二十話

カサリ、と乾いた音がして、今週もカウンター越しに茶封筒が差し出された。

「はい、今週分」

「あ、どうも……」 継人はそれを受け取る。ずしり、とは言わないが、確かな厚み。中身を見なくても、先週までと同じ、大学生のバイト代としては破格の金額が入っていることが分かった。


(……正直、こんなに貰って良いんだろうか) 継人は、封筒と店長の顔を交互に見た。 レポートをやっていただけの日。客(宇宙人)にビビっていただけの日。店長の視線に怯えていただけの日。 働いているという実感は、ほとんどない。


「あの、店長」

「ん?」 店長はスマホの画面から目を離さない。

「こんなにお金もらって……この店、大丈夫なんですか? 客、全然来ないし、来ても物々交換ですよね? お金、どこから出てるんです?」

「あー……」 店長は気だるげにタバコの煙を吐き出す。

「それは大丈夫だ。ちゃんと『タニマチ』がついてる」

「タニマチ……」 (また、はぐらかされた)


ラキさんの言う「お頭」。天狗が呼んだ「大江山の」。昨夜の「見えない」仲間たち。そして、あの『飴玉』。 この人の周りは、分からないことだらけだ。


「……店長って」 継人は、ほとんど無意識に、流れで聞いてしまっていた。

「一体、何者なんですか?」


ピタリ、と店長のスマホを操作する指が止まった。 ゆっくりと顔が上がり、ジト目が継人を真正面から捉える。


「……知りたいのか? バイト君」

「え、あ、いや……知りたい、というか……」 その真剣な眼差しに、継人は思わずたじろぐ。 店長は、ふう、とタバコの煙を細く長く吐き出すと、淡々とした口調で言った。


「私はな」

「……はい」

「実は、酒呑童子だ

「……はい?」 継人は、意味が分からず間抜けな声を返す。 店長は表情一つ変えないまま、続けた。

「平安時代の鬼だよ」


シン、と店内が静まり返る。 継人は、数秒間、真顔の店長を見つめた。 やがて、その言葉を「ジョーク」として処理し、乾いた愛想笑いを浮かべた。


「あ、はは……。ま、マジすか」 継人は、ドン引きするのを隠せないまま、椅子を少し後ろに引いた。 「……店長でも、冗談とか言うんですね。ちょっと、意外です」


店長は、継人のその反応を特に気にするでもなく、ふい、と視線をスマホに戻した。 そして、継人には聞こえるか聞こえないかぐらいの、小さな声で呟いた。


「……私は人を騙さないよ……」

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