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第十九話

「……あの、店長。明日、大学のレポートの締め切りなんで、バイト休ませて……」

「ん。じゃあ、店でやれば」

「え?」

「どうせ暇だし。暖房代浮くぞ」


というわけで、俺はノートパソコンをリュックに詰め、バイト先であるこの店に「出勤」した。 (はたして、これをバイトと呼べるのだろうか……) 継人は、カウンターの隅でカタカタとキーボードを叩きながら、深いため息をついた。 時給が発生しているのかも謎だ。まあ、賄いは出るだろうから、食費が浮くだけマシか。


横では、定位置の店長が、相変わらずタバコをふかしている。 いつものように、スマホを……見てない?


(……ん?)


継人はキーを打つ手を止め、そっと視線を横に向けた。 店長は、スマホを膝に置いたまま、タバコを指に挟み、じっと、真顔で、継人の顔を見ていた。


(……え、なに) 背筋が、ヒヤリと冷たくなる。 普通なら、こんな美人(年の頃はさっぱり分からんが)に見つめられたら、少しは嬉しくなるものだろう。 だが、この人に限っては、ただ怖い。 ジト目の奥、長い前髪の影になっている瞳が、何を考えているのかまったく分からないから、余計に怖い。


(なんでこっち見てるんだ……。レポートの邪魔だとか? いや、ここでやれって言ったの店長だし……) 継人はキーボードの上で指を固まらせたまま、冷や汗をかき始めた。 視線が痛い。


どれくらい、そうしていただろうか。 しびれを切らしたのは店長の方だった。


「……なぁ」 気だるげな、低い声。

「はいっ!」 継人は、ビクリと肩を震わせ、裏返った声を上げた。


店長は、表情一つ変えないまま、タバコを灰皿に押し付けた。 そして、継人の頬を指差す。


「お前、顔に米粒ついてるぞ」

「―――へ?」


継人は、言われた意味が分からず、間抜けな顔で頬に手をやった。指先に、カピカピになった何かが触れる。 (うわっ! 昼に買ったヤツだ!)


顔が一気に熱くなる。

「す、すみませんっ!」 慌てて米粒を取り、レポート画面に向き直る。 もう店長の方を見られない。


そのあとは、ひたすら恥ずかしい時間だけが過ぎていった。 継人は真っ赤な顔で俯きながら必死にキーボードを叩き、店長は(恐らく)いつも通り、スマホをいじる音をカチカチと響かせていた。

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