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第百十話

がらん、とした店の中。さっきまでの喧騒と破壊の跡が嘘のように、そこにはただ静寂だけがあった。 立ち尽くす継人に、床に座り込んでいた店長が、ゆらり、と立ち上がり近づいてきた。その目元はまだ赤い。


「……バイト君」

「店長……」

「……見えなくなったか? 棚の物とか、さっきまでいた奴らとか」

「……はい。見えない、です」 継人は、自分の目がおかしくなったのかと瞬きを繰り返すが、やはり何も見えない。空っぽの店があるだけだ。


「……そうか」 店長は、心底安堵したように、深く息を吐き出した。

「……よかった」


だが、継人は安堵などできなかった。

「よ、よくないですよ! ラキさんたちは!? くまさんも、カネさんも、トラさんもホシさんも! さっきまでそこにいたのに! ぬらりひょんさんや、モエさんは!? どこ行ったんですか!?」 パニックになり、声が裏返る。


「落ち着け」 店長が、静かに言う。

「だって! みんな、そこにいたのに! 急に見えなくなって……!」

「だから、落ち着け。……これで、いいんだ」


「よくないですよ!」 継人は叫んだ。

「明日から、どうやってここで働けばいいんですか!? みんながいないのに!」


店長は、黙ってタバコを取り出した。カチリ、と火をつけ、長く煙を吐き出す。

「……さっき、アメノウズメが言ってただろ」 「え……?」

「君の中にあった『飴玉』は、あいつが持ってったんだ」


店長は、継人を見た。その目は、もういつもの気だるげなジト目に戻っていた。

「これで……君が『弁償』するものは、なくなったな」

「……」

「バイト君。……クビだ」


「―――クビ?」 継人は、その言葉を理解できなかった。

「なんで……なんで、そんなこと言うんですか! 俺、この店で働きたいって、言ったじゃないですか! 元に戻っても、続けたいって!」怒りが、こみ上げてきた。


店長は、長くタバコの煙を吐き出すと、継人の真っ直ぐ前に立ち、その両肩に、そっと手を置いた。 そして、継人には見えない、しかし確かにそこにいるはずの部下たちに向かって、静かに命じた。


「……トラ、ホシ。……始めろ」


継人には何も見えない。だが、店の中の空気が、ビリ、と震えた気がした。床や壁に刻まれた術式が、淡い光を放ち始めたのを、継人は知らない。


「……何してる。やれ」 店長が、再度、静かに促す。


「な、何してるんですか!? 離してください!」 継人は、店長の手を振り解こうとする。だが、その細い腕は、まるで鋼鉄のようにびくともしない。

「……無理だよ」 店長が、静かに言う。

「私は、鬼だよ。……君には、振り解けないさ」


「何をするつもりなんですか!?」 継人は叫んだ。訳のわからない恐怖が、背筋を這い上がってくる。


店長は、継人の目を真っ直ぐに見つめたまま、静かに語り始めた。

「……いつぞや」

「え……?」

「君に、『今は言えない事がある』と、そう言ったことがあっただろう?」


「……はい」

「それは……今から、私がやることについてだ」

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