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第百九話

やがて、店長の嗚咽も途切れがちになり、アメノウズメの腹を抱えていた笑い声も、疲れたように収まってきた。 半壊した店の中には、奇妙な静寂が訪ずれる。


「……はぁー……」 アメノウズメは、笑い疲れて目尻に溜まった涙を指で拭うと、大きなため息をついた。

「……降参。降参だよ、鬼さん」


彼女は、まだ床でぐったりとしている店長を見下ろし、呆れたように、しかしどこか楽しそうに言った。

「もう、いいや。なんか……バカらしくなっちゃった。久しぶりだよ、こんなに笑ったの」 アメノウズメは、軽やかに立ち上がると、店の出口へと向かった。


「……待て」 か細いが、芯のある声がした。店長だった。 彼女は、まだ目を赤く腫らしたまま、アメノウズメを睨みつけた。

「……交換、してけ」


「……ぷっ」 その言葉に、アメノウズメはまた吹き出した。

「あはは! もう勘弁してよ! ルールは絶対なんだね、アンタ」 笑い涙を拭いながら、アメノウズメは少し考える素振りを見せた。


「んー……そうだなぁ」 彼女は、継人の方を見た。

「さっきは鬼さんの面白い舞(泣き暴れ)を見せてもらったし……。正直、継人より、そっちの鬼さんの方に興味出ちゃったかも」


アメノウズメは、悪戯っぽく笑うと、継人に向かってそっと手をかざした。

「だから、お礼も兼ねて。君の中にある、私の欠片……あれ、持って帰ることにするよ」


「え……?」 継人が問い返す間もなく。 アメノウズメは、さっき自分が棚に置いた古びた小物を指差した。 「あれと、交換ね」


その言葉と同時に、継人の体の中から、何か温かいものが、ふわり、と抜けていく感覚があった。 アメノウズメは満足そうに頷くと、今度こそ店を出ていこうとした。


その瞬間だった。


(……あれ?)


継人の視界から、色が消えたように感じた。 いや、違う。 さっきまで、暖簾の裏からこちらの様子を心配そうに覗いていたはずの、ラキさん、くまさん、カネさん、トラさん、ホシさんの姿が、忽然と消えていた。 店長に寄り添うように立っていた、ぬらりひょんの姿も、どこにもない。


混乱する継人の目の前で、さらに異変が起こる。 半壊した棚の上に残っていたはずの、禍々しいガラクタや、奇妙な置物たちが、まるで最初からそこになかったかのように、次々と見えなくなっていく。


数秒後。 そこには、継人が初めてこの店を訪れた時と同じ光景―――がらんとした、商品の何もない、静寂に包まれた空っぽの店―――だけが広がっていた。


そして、その中央には、泣き止み、呆然と床に座り込む店長と、立ち尽くす継人の二人だけが、残されていた。

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