第百七話
「交換で、継人を持っていくね!」
アメノウズメは、まるで当然のように、そう言い放った。 その言葉に、継人はゾッとした。
(物と……人を、同じに考えてる……!?) 元から行くつもりはなかったが、この女神の思考回路を垣間見て、絶対に行ってはいけない、と本能的な恐怖が背筋を駆け上がった。
隣で見ていたモエさんも同じだったようだ。顔面蒼白になり、アメノウズメが言っていることの意味が理解できずに慄いている。 だが、ぬらりひょんと店長だけは違った。二人は、顔色一つ変えず、真っ直ぐアメノウズメを見返していた。
先に口を開いたのは、店長だった。
「……ダメだ」 短く、しかしキッパリとした拒絶だった。
「えー? 何で?」 アメノウズメは、不満そうに唇を尖らせる。 「ちゃんと、そっちのルールに則ったよ? 物を置いて、物(継人)を持っていく。でしょ?」
「ダメだ」 店長は繰り返した。
「こいつはこの店に並べてる『商品』じゃない。今日のこいつは『客』だ。だから、ダメだ」
(出た、屁理屈……) その、いつもの店長らしい言い分に、継人はほんの少しだけ、緊張がほぐれるのを感じた。
だが、アメノウズメはそんなことには意に介さず、続けた。
「でもさ、この店での決まりは、『物を置いて、物を持っていく』なんでしょ? 私、何も間違えてないじゃない。物を置いて、継人を持っていく。なら、やっぱり間違いじゃないはずだよ?」
店長の肩が、微かに震え始めた。
「……ダメだ! 言っただろ、こいつは商品じゃない!」 店長の声が、少し上擦る。
「こいつは……! とにかく、ダメなんだ!」
「何それ? ルール曲げようとしてるの、そっちじゃない?」 アメノウズメは、面白そうに店長を追い詰める。
店長の肩の震えは、さらに大きくなった。 グスッ、と鼻をすする音も混じり始めた。
「……こいつはな、『人間』なんだ」 絞り出すような、震える声だった。
「私たちとは、住む世界が違う人間なんだ!」
「おに連れて行かれるために、今ここにいるわけじゃない!」
「ましてや、私たち化け物と、共存できるわけでもない!」 店長は、涙声で叫んでいた。
「こいつには! ちゃんと、こいつの生を全うする権利がある! 化け物が、それを奪うのは、道理じゃない!」
「だから! お前がこいつを連れていくのは、ダメなんだ!!」
「ん〜……でもねえ、鬼さん」 アメノウズメは、店長の必死の訴えを、あっさりと鼻で笑った。
「貴方みたいな『化け物』なら、そうかもしれないけど。私は『神』だから、大丈夫だよ?」 彼女は、継人に向かって、再び優しく微笑みかけた。
「ちゃんと、面倒見てあげるから。ね?」
その言葉が、最後の引き金だった。 店長の顔が、くしゃりと歪む。 (あ、ヤバい……!) 継人が、あの悪夢の再来を察知した瞬間。
バタバタバタッ!! 暖簾の奥から、ラキ、くま、カネ、トラ、ホシの五人が、待機していたと言わんばかりの勢いで飛び出してきた。
彼らは、泣き出す寸前の店長と、アメノウズメの間に割って入るように、継人、モエさん、そしてぬらりひょんの前に立ちはだかった。
「お頭!」 ラキが、決意を込めた声で叫んだ。
「あとは任せて! 派手にやっちまってください!!」




