第百四話
アメノウズメは、店に入って最初にしたこと――継人が棚に置いた、あの虹色に輝く石(継人にしか、そうは見えていない)を一瞥した。
「へえ。ちゃんと『放棄き』できたんだ。すごいすごい」 まるで赤子をあやすように、パチパチとを叩く。
「でも、大丈夫。『本体』はまだ、ちゃんと君の中にあるからね」 アメノウズメは、継人に向かって、にっこりと微笑んだ。
「……それで? 何しに来た」 店長が、改めて低い声で尋ねた。その手は、カウンターの下で、タバコを握りしめている。
「だから〜」 アメノウズメは、心底うんざりしたように頬を膨らませた。
「継人を、迎えに来たんだってば」
「ほう。それはまた、何故だい?」 口を挟んだのは、ぬらりひょんだった。彼女は、立ち上がったモエさんを自分の後ろに庇うようにしながら、アメノウズメを値踏みするように見ている。
「んー?」 アメノウズメは、ぬらりひょんを一睨みした。
「アンタ誰? 関係ないんだけど。何でいちいち理由とか言わなきゃいけないわけ?」
「そうかい? こちらとしては、その小僧をみすみす連れて行かれるわけにはいかないからねぇ」 ぬらりひょんの、普段の掴みどころのない雰囲気が消え、老獪な大妖怪としての威圧感が滲み出る。
継人は、三者の間に流れる、見えない火花を感じていた。 店長は、自分の責任でこうなった、と継人を守ろうとしている。 ぬらりひょんは、さっき『縁』とか言ってたが、俺が連れて行かれるのを阻止しようとしている。 そして、モエさんも、震えながらも、ぬらりひょんの後ろで、少しでも俺を守ろうと、アメノウズメを睨みつけている(ように見えた)。 騙していた友人を助けて、贖罪したい。そんな思いが、彼女の目には宿っていた。 三者三様の思惑は違えど、今、三人は確かに、アメノウズメの前に立ちはだかっていた。
「へえ……」 アメノウズメは、その様子を面白そうに眺め、やがて、一番の当事者である継人に、話を振った。 「ねえ、継人は、どうしたい?」
「え……?」 突然話を振られ、継人は戸惑う。
「その……迎えに来たって……何ですか? どこに?」
「んふふ」 アメノウズメは、心底嬉しそうに笑った。 「決まってるじゃない。私のコレクションの一つになって欲しいの。だから、私の世界に、ね?」




