第22話スピンオフ:ゼノ・ミアーナの運命④(完結)
仮面舞踏会の夜、届かぬ想いを抱えたまま微笑んだミアーナの背中に、ゼノは何も言えなかった。 だが、それは終わりではなかった。 セイラとの別れ、父との決別、ルシアの旅立ち―― それらすべてを経たとき、ゼノの心に残ったものは、たったひとつの願いだった。
「君に、もう一度微笑んでほしい」
これは、選ばれし王子の、ただのひとりの青年としての決意の物語。
――『もう一度、君に微笑むために』
仮面舞踏会から数日後――
ゼノ・グランリュードは、王宮の一室で静かに窓を見つめていた。
「……あの日、セイラに想いを伝えた。けれど、届かなかった」
リオンとセイラ…。 セリーナとリオン。
記憶の操作でモヤモヤしていた全てを思い出し、互いの記憶が繋がったふたりを見て、ようやく心から“手放す”ことができた。
(リオン……。まったく、最後まで格好つけやがって)
少しだけ照れくさくて、少しだけ寂しくて、それでも心の底に残っていた迷いが、不思議なほど晴れていた。
それに、セイラがセリーナで姉で……となれば、確かに……惹かれ合うのも“運命”か。
「……やれやれ。あれだけ騒いだ俺が…。いちばん振り回されてたじゃないか…。ちがうか。みんなを振り回したのは俺か…はぁ。」
苦笑しながら、ゼノはデスクの引き出しから、小さな箱を取り出した。
白く、美しい光を放つ指輪が、中にひとつだけ、眠っていた。
それは、彼が仮面舞踏会の直前――いや、もっと前から、用意していたものだった。
ミアーナ・リュミエールのために。
だが、セイラへの想いに蓋をしたつもりで、ミアーナからも逃げていた。 義務に逃げ、責任に縋り、愛から目を背けた。
けれど、もう迷わない。
ミアーナが泣きながら微笑んだ、あの夜。 彼女のあの姿が、ずっと頭から離れなかった。
そして、もうひとつ――
「……もう一つのドレス…」
ふと思い出して、ゼノはつぶやく。
実は、ミアーナに仕立てたドレスは2着あった。
純白のものと、深い蒼のドレス。
ひとつは、ただ“彼女に似合うと思った色”を選んで作らせたもの。
もうひとつは、夢に見た婚約をして戴冠式に着て欲しいと思っていた純白ドレス。
そのうち一着は……セイラに着せることになった。
「……まったく、無駄が多いな、俺は…」
窓の外で、夏の光が庭園を照らしていた。
その花々の中に、小さな影が見えた。
「殿下……お呼びでしょうか」
声がして振り返ると、リオンだった。
「ミアーナ!!……」
ゼノは立ち上がり、全く違う姿、全く違う声、全く違う形を見て、ガッカリと恥ずかしさで、動けなくなっていた。
「殿下…すみません。ミアーナ様ではなくて。」
「……あぁ。リオンか。す、すまない。」
あの事件の日から、リオンはセイラと結ばれる事はわかった。運命の相手同士だった。
だから、俺には…
勝ち目などないこと。
セイラが姉上…だった事で
恋ではなく愛…
家族の絆があると理解はした。
(ある意味運命だとも思ったが。。。)
だからあきらめた。でも…なんだか気まずい。
「ゼノ殿下…ご用件は…」
相変わらず、礼儀正しく…全く隙がない。
完璧な騎士の護衛にますます辛くなりそうだ。
「……父は静かに王座を降り、ルシアは自らの罪と想いを抱えて扉へ旅立った。
母は……セイ――姉上に再び会えたことを、涙を浮かべて喜んでいた。けれど……俺は…。」
あの夜を境に、王宮の空気は変わった。
過去の過ちも、誰かへの想いも、簡単には癒えはしない。
それでも、ゼノは毎朝、王宮の扉をくぐり、背筋を伸ばして玉座の間へと歩を進めた。
混乱の余韻が国を包む中――
失ったものに胸を痛めながらも、
誇り高き王族として、誰よりも早く前を向こうとした。
傷ついた国を支え。
混乱の余韻が消えぬ国で、誰よりも冷静に、そして誰よりも孤独に。
自分たちの未来を守るために。
それを誰よりも近くで感じている
ゼノ殿下、直属護衛騎士のリオンは口を開く。
「はい。ゼノ殿下は立派だと思っています。あの日以来、殿下の目まぐるしい忙しさと辛さを見ていました…。この国に必要なのは殿下みたいな国お…」
いきなり立ち上がり、机をバンっ!!と叩き話を遮った。
「はは。立派?笑わせるな!!お前は…俺を笑いたいだけだろ。」
言いたくもない言葉がずらずらと。
感情が抑えられなくなり、口から勝手に…
「お前はいいよな!セイラと正式に婚約でもすればいい。俺は…俺はもう取り返しが…」
「殿下…」
少し聞こえるリオンの声に怒りが沸き起こる。
「うるさい!まだ何かあるのか!」
「ミアーナ様がゼノ殿下にお会いしたいそうです…来ています。ここに。」
「ミアーナが…来て…る?」
驚きのあまり声がかすれていた。
嬉しさと悲しさと愛しさと切なさが。
すべての感情に流されそうになっていた。
「会えるわけ…ないだろ…。誰がこんな俺に会いたいんだよ。情けないだけだろ…」
「殿下…私があなたの立場なら…後悔しないように会いに行きますが…過ぎた事を悔やむより…今できることがあるのでは?」
リオンが言った”後悔しないように”が心を揺さぶった。
「君に…また会えたら…な…」
その言葉に、一瞬リオンの心が戸惑った。
昔、自分がセリーナに向けて言った言葉だった。
その言葉の想いを胸に…リオンは話を続けた。
「私はゼノ殿下の専属騎士の護衛ですが、”友”でもあると認識しております。”友”として言わせて頂きます。」
全く…リオンはすごいな。
昔からこんな奴だった…。
俺をずっと傍で守ってくれていた”友”。
俺はまたリオンに救われたのか…
リオン…おれ…は ドカっ!!
「早く行け!っつてんだろ!バカ王子!ミアーナが待ってるんだから早く走れーー!」
!?!?!!!!
何が起こったんだ?
ドカっ!っと鈍い音がした。
俺は王子だぞ?蹴られた?俺を蹴った?
なんて奴だ。でも今は急がないと…
「リオン感謝する…行ってくる…」
俺は走った。
王族は緊急性がなければ、走るという行為はしないだろう。
だが、走った。ミアーナは中庭にいるはず。
場所は聞かなかったがわかる。
だってミアーナの事だから。
広い廊下を走り、心臓が飛び出そうなくらい高鳴っていた。
眩い光に包まれ、眩しい顔に手を添えて
「ミアーナ!!」
俺は叫んだ。息が切れていたが無理に声を張った。そして見えたのが彼女だった。
「ゼノ殿下。お久しぶりです。ふふ。どうしたんですか?そんなに慌てて走って。昔みたいにお怪我しちゃいますよ。ま、わたしが治しますけどね。」
ミアーナは静かに微笑んだ。
あんなに酷い事をいくつもしてしまったにも関わらず、いつも通りに微笑んでいた。
「はぁはぁ…。ミアーナ…。俺は…間違っていた。国や名誉の為に君を傷つけた。すまない。本当にすまなかった。」
息を整え、誠実に謝罪をし心から謝りたいと願っていた。やりなおす事はできるのだろうか…。
ミアーナは静かに口を開いた。
「……あの夜、私は想いを伝えに行きました。殿下の気持ちは伝わりましたよ。」
ゼノはミアーナの言葉に心が抉られた。
悲しくて切なさを胸に…涙を堪えて言った。
「俺は…君に酷い事を…」
ミアーナは顔を横に振り、笑顔を見せた
「違います殿下。あなたは必然的にセイラ様を好いた…運命に誘われて今…私の前に居るのではないのですか?」
ゼノはびっくりして動けなかった。。
「え?ミアーナ今なんて?」
「運命と申しました。。ゼノ殿下。私は今もこの先も…ゼノ…を愛しております…」
涙より先に、ゼノは動いていた。
ミアーナは腕の中にいる。君はここにいる
「ミアーナ…。君は…全く…。
俺はだめな王子なのに…。君にまた会えたら…伝えたい事があったんだ。聞いてくれ…。」
そう言って、ゼノはミアーナの前に跪き、そっと手を差し出した。
「もう逃げない。君は俺に“愛”を教えてくれた。ミアーナ・リュミエール。……俺と、共に歩んでくれませんか。」
彼女の瞳がから綺麗な涙がこぼれていた。
「ミアーナ。俺と結婚して下さい。そして、国の要となり、俺を導いてくれ。」
「……はい。喜んで」
小さく、でも確かに、ふたりの未来が結ばれた瞬間だった。
二人の影が重なり、未来が照らされていた。
眩しい光を見守るように、、
ふたりの影を踏まぬように…
そっとその場を後にするリオンだった。
* * *
戴冠式の朝。
王宮の大広間では、ゼノ・グランリュードの新たな旅立ちが、堂々と告げられていた。
セリーヌ王妃が静かに、息子の背中を見守る。
そしてその傍らに並ぶのは、 純白のドレスに身を包んだ、ミアーナ・リュミエール。
誰よりも静かで、誰よりも凛として、美しく――
その手をしっかりと握るゼノの姿。
ふたりの婚約は、政略ではない。 自らの意思で選んだ“真実の愛”だった。
運命は自分で切り開けると…
国の未来はこの二人に任せても大丈夫だと
そう思わせてくれた。
”君にまた会えたら”――
その言葉が、こんなにも優しく胸を満たす日が来るなんて。
僕はもう、二度と君を見失わない。
君が涙を流すなら、
その理由をすべて分かち合いたい。
君が笑うなら、そばにいたい。
ミアーナ、君は僕にとって、王冠よりも大切な――
この国で、いちばん美しく、強くて、愛しい人だ。
君にまた会えたら、もう迷わず、
何度でも伝えるよ。
「愛してる。君が、僕の宝物だ」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
長かったゼノ編、ようやく完結です。
最初は完璧でどこか意地悪な王子だった彼が、たくさんの葛藤を経て、心を開き、本当に大切な人と出会い直す物語。
セイラとの別れ。 リオンとの対立と和解。 ルシアの旅立ち。 父との決別。
すべてを超えて選んだ道の先に、やっと“ミアーナ”がいてくれました。
どうかふたりの未来が、優しくあたたかなものでありますように。
そして―― この物語の主軸、“セイラとリオン”も、いよいよ運命の核心へと進んでいきます。
次回 『君にまた会えたら~』――
セイラとリオンの愛と運命の物語。 どうぞ、最後まで見届けてください。




