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第2話「王宮の影と、騎士のまなざし」

セイラが異世界で王宮に迎えられ、不安と戸惑いの中、騎士リオンと出会います。そして、完璧な王子ゼノの思惑とは…?



 まぶしい光に包まれたあと、セイラの意識はゆっくりと目を覚ました。


 天井は見たこともない模様の彫刻が施され、シーツは絹のように柔らかく肌を撫でてくる。

 身体を起こすと、窓の外に広がるのは、まるで絵本の中に出てきそうな幻想的な景色だった。


「ここは……どこ……?」


 昨日までの教室も、スマホの画面も、どこか遠い夢のようだった。


 部屋の扉が開く音がして、思わず身を縮める。

 現れたのは、ふわりと優雅なドレスをまとった女性だった。


「お目覚めね。安心して。ここは王宮よ。あなたは森で倒れていたの」


 その声はどこか母のようで、温かかった。


「私は王妃よ。この国の王の、たった一人の妃。あなたを保護するように言ったのは私。怖がらなくていいわ」


「……ありがとうございます」


 声が震えていた。けれど、彼女の微笑みに、セイラは少しだけ肩の力を抜いた。


 だがその直後、重い扉が開き、場の空気が一変する。

 黒いマントを羽織った男――威圧的な眼差しを持つ、この国の王だった。


「……この娘が、異邦の者か」


 王の言葉は冷たく、まるで物を見るようだった。


 その視線に、セイラは喉が詰まる。口が開けられない。


 しかし次の瞬間、その場にもう一人の男が現れた。


 銀の鎧を身にまとい、凛とした佇まい。

 ――彼こそ、リオセンス。通称リオン。王国最強の騎士。


「陛下。申し訳ありません。遅れました」


「リオンか。お前もこの娘を見ただろう? 何か感じたか?」


 リオンの目が、まっすぐにセイラを見た。


 そのまなざしは、なぜか懐かしく、優しかった。

 セイラの胸が、きゅっと締め付けられる。


「……確かに、彼女は……何かを秘めているように感じました」


「ふん。見た目だけは悪くはない。おぬし、名前は?」


「聖良せいらと……申します……えっとここはど……」


喋っている最中にも関わらず、躊躇なく遮ってくる


「セイラか。はっはっは。なんとも……そうか異世界人か……ならば……」


 その瞬間、重なるように別の足音が響く。


「その娘に、興味があります父上。」


 現れたのは、金の髪に深紅の瞳を持つ青年――第一王子、ゼノだった。


「何を秘めているのか……王宮に置いてもいいんじゃない? 父上」


 ゼノは、セイラの手を取って、にこりと微笑む。


「ようこそ、異邦の少女。君に会えて、光栄だよ」


 その言葉が意味するものも、視線に宿るものも、セイラにはまだ理解できなかった。


 ただ、リオンの眼差しだけが、どこか苦しげに揺れていた。




 王宮に身を置くことが決まってから、セイラの時間は目まぐるしく過ぎていった。

 まるでおとぎ話のような世界――だけど、そこにあるのは夢のような優しさばかりではなかった。


「異邦人が王宮に?」「いったい、何者なの?」


 使用人たちのささやき声。

 すれ違う貴族たちの冷ややかな目。


 王妃は温かく接してくれたが、それ以外は、息が詰まるような毎日だった。


「……こんな場所で、私は何をしてるんだろう」


 静かな庭園の片隅。

 セイラが腰を下ろしてうつむいていると、すぐそばで誰かが足音を止めた。


「……君は……まだ慣れないですか。異世界の方……」


 低く穏やかな声。

 顔を上げれば、そこにはリオンの姿があった。


「リオン……さん」


「名前を名乗った覚えは無いが……リオンでいい。」


 セイラが目を見開くと、彼はふっと目をそらす。


「なぜか、リオンって名前を知ってるようで、あなたは私を知っているんですか?」


何も言わず、風に吹かれてため息が零れる。


「……リオンは、ずっとここに住んでるんだよね。小さい頃から?」


「ああ。生まれたときから……ずっと王宮で育った。王宮の専属騎士として訓練している。」


 その言葉に、セイラの胸がわずかに揺れる。


 ――この人……私のなんなんだろう。。


 自分の世界に戻りたいと思っていたけれど、セイラの目に映るリオンはどこか、懐かしく優しく、満たされる気持ちで心が、揺らぐ……。


「……リオンは、優しい人ね」


「優しい?」

 彼は少し驚いたように目を細めた。

「そんなふうに言われるのは……久しぶりだ……」


 その一言に、リオンの中に何かがふと揺れた――。


 彼女の声、彼女の笑顔。

 そのすべてに既視感を覚えるのはなぜなのか。

 まるで過去に――彼女と何かを誓ったような、そんな感覚。


 ……それが何なのか、まだ思い出せない。


 だがその穏やかな時間は、突然の声によって破られた。


「セイラ、こんなところにいたんだね」


 振り返ると、ゼノ王子が立っていた。

 柔らかな微笑み――だがその奥には、計算された何かが見え隠れする。


「セイラと少し話がしたくて。来てくれる?」


「えっと……はい……」


 思わず立ち上がるセイラ。

 リオンの視線が、じっとゼノを見つめていた。


 ゼノはセイラの手を軽く取り、そのまま歩き出す。

 リオンは動かない。ただその背中を、黙って見送っていた。


 ――……を守るためには、騎士でなければならない。

 だが、それだけでは足りない気がしていた。。


 リオンの中に、騎士としての“使命”とは違う、感情が生まれ始めていた。


 セイラを見ていると、心の奥がざわつく。

 それが幻想なのか、過去の記憶なのか、あるいは運命なのか――


 まだ彼自身も、答えを見つけられずにいた。


読んでくださってありがとうございます!

リオンとセイラの距離が少しずつ近づき、ゼノ王子の影も…?次回もお楽しみに

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