第17話 スピンオフ:ルシア~運命の選択③
姉が姿を消した翌日、神天家に訪れた静寂。
でも、その沈黙を破るように現れたのは、ずっとそばで見守ってくれた“家族”だった――
「姉が消えた日」
―姉がいなくなったのは、本当に、突然だった。
昨夜、あんなに元気だったのに。
僕の部屋の前で、姉さんは笑って言った。
「聖人ー! 明日プリントちゃんと出すんだよ! 出さなかったら罰金だからね?」
「な、罰金…姉さんに言われなくても、ちゃんと出すよ!!……」
そんな、なんでもないやり取りが、まさか最後になるなんて。
朝、目が覚めたとき。家は静かすぎた。
リビングに降りると、母さん――歩美さんが、台所の前で立ち尽くしていた。
「……母さん? 姉さんは?」
「……まだ。帰ってこない……聖良……」
母の震えた声が、胸に刺さった。
警察も学校も、何も手がかりを見つけられない。母さんは仕事を休み、必死に探している。
(……やっぱり、転移したんだ)
それが分かっているのに、僕にはまだ言えなかった――
その夜、玄関の扉が開いた。
「ただいま! 歩美! 聖人! 大丈夫か?」
低く優しい声。
そこに立っていたのは、長い海外出張から急きょ戻った、父――神天 誠司だった。
「聖良が…聖良がいないの。……何も言わずに……」
「……分かった。大丈夫。必ず見つけるよ」
父のあたたかな腕に抱かれて、母は泣いた。
その背中を見ながら、僕の中の“ルシア”が静かに涙を流した。
「聖人、ありがとうな。母さんを支えてくれて。……さすが、神天家の長男だ」
その一言で、胸がいっぱいになって、
僕は涙をこらえきれず――
「ごめんなさい、僕が来たせいで……姉さんが……!」
泣き崩れた僕を、父はただ、優しく抱きしめてくれた。
その夜。
僕は姉の部屋へと足を運んだ。
変わらない部屋。いつもの香り。
机の上には一枚の紙が、そっと残されていた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
誰かが私を呼んでいる…
私はこの世界でとても満足してる。
でも毎日、夢みていたことがある。
誰かと約束したような気がする。
「君にまた会えたら…」と。
意味はわからないけど、行かなきゃ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「……姉さん……」
その紙を見つめていると、後ろから父がそっと手を添えて読んだ。
「聖人は知っていたのかな?」
「……はい。姉さんは……愛する人との約束を果たしに、旅に出たんです」
「そうか……。じゃあ、信じよう。きっと、また会えると」
翌朝。
僕の家の前に、二人の人影が待っていた。
「聖人!」
「おーい!大丈夫か?ちゃんと寝れてるか?」
王咲 愛音と善皇 リオの二人だ。
二人は、僕を心配して迎えに来てくれた。
けれど、ただの友達なんかじゃない。
僕の心を、支えてくれる大切な存在だった。
「……心配して、来てくれたの?」
「当たり前でしょ! 聖人が一人で抱え込むの、わかってるもん。」
「俺たちは、ずっとそばにいるからな。聖良姉がいなくても、俺たちは聖人を一人にしたりしない」
その言葉に、思わず胸が熱くなる。
「……ありがとう。2人とも僕……」
泣きそうになってうつむいた僕の手を、愛音がそっと握った。
「もう!泣かないの!聖人の居場所!ちゃんとあるから」
「俺たちで、守ってやるよ。」
僕は、ゆっくりと頷いた。
温かい手のぬくもりが、心の奥まで届いてくる。
家に帰ると、母さんと父さんが、いつものように夕飯を囲んでいた。
そして、姉さんの席も変わらずそこにあった。
「ただいま……。」
「おかえり、聖人!今日はパパ特製ハンバーグだって!早く食べましょっ!」
「おかえり聖人!見てくれ!特大の作ったからな!聖人のために!笑。」
「ありがとう…ございます。」
「なんだ?元気ないぞ!……。
それじゃ、帰って来た時に聖良に笑われるぞ!」
「そうよ!聖人!聖良なら大丈夫。あの子なら……。また会えるってパパが言ってるんだもの!だから必ず…また四人で…さぁ家族でご飯たべましょ!」
からげんきな父さん母さんなのか…
僕はちゃんと理解してるつもりだ。
姉さんがいないこの世界で…
僕がやらなきゃいけない使命を……
父さん母さんを大切にしなきゃ…
僕の大切な守りたい者とは…
僕は、席に座り、そっと手を合わせた。
「いただきます…。」
――姉上。君がいたこの世界で、
僕は今、ちゃんと生きている…。
神天 聖人として…生きている…。
この家族の一員として――
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転生”という別れを、家族と、そして友とどう受け止めていくのか。
聖人が少しずつ前を向く姿には、ルシアだった頃の後悔と、今ここにある絆の重なりが感じられます。
次回は、その後、心の変化を描いていきます。
「誰かのために生きる」ことを知った少年の、その先の未来へ――




