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第12話「君にまた会えたら」

いよいよ、本編の最終話となります。

運命に引き裂かれた想い、

前国王アルトリウスと現国王レオファルドとの兄弟の因縁や、選び取られた未来、それぞれの別れと始まり――

最後まで、セイラたちの物語を見届けていただけたら嬉しいです。



晩餐会の混乱から数日。

王宮は、沈黙のなかに揺れていた。


国王レオファルドは、ルアリスの毒の使用を王妃セリーヌに告発され、事実関係を否定できず、ついに玉座を明け渡すこととなった。


かつて前王アルトリウスを死に追いやり、異界の“鍵”を我がものにせんとし二度に渡り、大災を起こそうと企むレオファルドの野望は、王妃の手によって明らかにされ、静かに終焉を迎える。


彼が最後に言い残したのは、低く乾いた笑みだった。


「かつての……兄を裏切り、玉座を奪ってやった。選ばれし者などくだらぬ幻想だと嘲笑った。だが……結局、“セリーナの血”か。あの女の系譜には、力すら届かぬというのか……!」



その瞳には、わずかな悔いと諦めが浮かんでいた。



「……玉座も、民も、息子たちも……すべて失った……。

私は兄上を手に掛け、兄上の愛娘を追い払い。セリーヌを我が物した。しかし、お前たちの心ひとつ、動かすこともできなかったのだな……

セリーヌよ……

あの男──アルトリウスの影に隠れながら、私はずっと……お前を見ていた。

気づけば、兄上に向ける、その澄んだ眼差しを……私に向けてほしかった……

無口で、いつも静かだったお前が、ときおり空を見上げて微笑むたびに、なぜか胸が痛んだ。

セリーヌよ……。お前の前では王と言う重圧よりなぜかただの男になってしまうのだ。

私は……ずっと昔から、お前に惹かれていたんだ……。だからお前の心が全部欲しかった。

だが結局、心を縛ることも、振り向きもしなかった、あの時からずっと……。」


――一国の王が呟くには、あまりにも寂しげな声だった。

それは玉座に君臨していた男の言葉というより、

ひとりの孤独な人間がようやく吐き出した、心の底の本音と恋文だった。


長い沈黙のあと、セリーヌはゆっくりとその瞳を閉じる。

まるで、彼の告白を静かに受け止め、そして心の奥へそっと沈めていくかのように。


彼女の横顔は、変わらず静かで、冷ややかに見えるほど凛としていた。


だがその瞳の奥には、かつて交わらなかった哀しみと、たしかに届かなかった想いへの同情の痛みがわずかに揺れていた。


すぐ近くにいたゼノ・グランリュードは、父の弱さを初めて見た気がして、表情を複雑に歪めていた。



リオンは何も言わず、ただ静かに目を伏せ、今まで最強騎士としての感謝と敬意を持って、王の背中を見つめていた。


セイラもまた、手を胸にあてながら、

「王」ではなく「ひとりの男」の姿と真実の愛の告白に心を揺さぶられていた。



すべてを手に入れようとした者の末路。



それは栄光の終焉ではなく、誰にも届かなかった愛と誇りの、静かな崩壊だった。


そして、誰も何も言わなかった……。

その静寂が、彼の最期の言葉よりも多くを物語っていた。



セリーヌはゆるやかに目を開け、静かに続けた。



「陛下……あなたがいちばん“人間らしかった”のは……玉座を失った今……なのですね……」


その言葉に、王はわずかに目を伏せ、悔いとともに微笑んだ。


だがその笑みは、どこか満たされているようでもあった。





──そして、王は失脚し、王位継承者として

ゼノ・グランリュードの名が告げられる。



けれど、祝福の声はまだ上がらない。

王国の未来は、新たな波乱の気配とともにあった。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「……扉が、開く時が来たようです」


セリーヌの言葉に、セイラはゆっくりと頷いた。

王宮の最奥、“封印の間”。

そこには、セリーナがかつて封じた“異界の門”が静かに存在していた。


扉は、ルアリスの花が再び現世に咲いたことで反応をはじめていた。

歪みは再び世界に広がり、

──ルシアが姿を消してからというもの、誰もが不穏な気配を感じ取っていた。



リオンとゼノが、セイラの両隣に立つ。



「……セイラ、行かないでくれ……。君がいなくなったら、──僕も……母上も……本当に、悲しいんだ。

あの時、毒を飲まされて気づいたんだ。ルシアと信頼が築けずに……父上には見限られたんだって……。だけど、君の声だけは、確かに聞こえていたんだ……。


王子としてではなく、ひとりの男として……僕は君を引き止めたい。

君がリオンに惹かれていること、悔しくて、胸が焼けるようだ……。彼が……羨ましい。


それでも……君の心のどこかに、僕がいたと、信じたくて……だからお願いだ、もう少しだけでいい。

この場所に、僕の傍にいてくれ、セイラ……」



ゼノの言葉に、セイラは微笑む。


「ゼノ殿下!……殿下にはミアーナがいるではありませんか!大丈夫です。ゼノ殿下の優しさはこの国を必ず幸せに導くはずです!」



ゼノの顔は、涙を見せずに決意が浮かんでいた。



「……あの夜、ゼノ殿下が倒れたとき……私、本当に怖かった。胸が痛くて、手が震えて……あの瞬間、自分でもわからないくらい、ゼノのことを想っていたのかもしれません。

でも……今も、正直わからないんです……心と体が……魂が傍にいたいと願っているのは……リオンのはずなんです。……なのに……まだ私は思い出せない記憶があるようで……。」




セイラの声は震えていた。けれど、言葉はまっすぐにゼノの心、リオンの耳に届いていた。



「……だから……ごめんなさい、ゼノ。

今の私は、まだ誰かを“選ぶ”ことができません。

けれど……私の心に、確かにゼノがいた時間があった事……忘れません。ありがとう……」



セイラの言葉に、ゼノはほんの少し──寂しげで、けれどどこか穏やかな笑みを浮かべた。



それは、敗れた男の未練でありながらも、

ひとりの王子として、少女の誠実さに心打たれた証だった。


何かを失いながらも、その優しさに癒されるように──

ゼノは静かに目を閉じ、風に吹かれるようにその想いを手放した。


リオンは何も言わず、何かを待っているかのように、そして寂しげにセイラの横でじっと見守っていた。


セイラの言葉に静寂が落ちた。

誰もが言葉を失い、ただ時が止まったような空気の中──


セリーヌが歩み寄り、優しく頬に手を添えて、話し始めた。


「──次は、私の番ですね。セイラ……いいえ、セリーナ。

ようやくまた……あなたに会えましたね。私の、かけがえのない娘……。

今こそ、誰も知らぬ真実を……セイラ、あなたに、そして皆にすべてを話しましょう。」



セリーヌは頷き、淡々と静かに語り出す。


「セイラ……あなたは女神の血を引く者。この国の第一王女でした。その名はセリーナ・グランリュード。」


周りの空気が変わり、皆が一瞬、息を飲むの事を躊躇する……


「女神の血を引く子は選ばれし“鍵”として、この世界と現世を繋ぐ“器”になり……。セリーナはルアリスの花が咲いた歪みで、毒と記憶を持ちながら鍵となりこの世の大災を消し去るために扉に自ら入りました。私の代わりに……そしてまた、今、ルアリスの花が咲いてしまいました……」


みんなの空気が静まり返った時に


リオンの瞳が揺れ、口を開く。


「…セリーナ…君にまた会えたら…そのときは………」


セイラの中で、ひとつの線が固く結ばれるように記憶と身体が、ひとつになり。衝撃が走った。

記憶が鮮明に一つずつ思い出された。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


(大災の日、封印の直前、若き日のリオンのセリーナへの最後の言葉)


「……セリーナ!!あなたがこの大災を止めなければならないのですか……?」

「……まだ、私には……あなたを救う力がないんだ。……だめだ、、くそ。」

「せめて──僕に力がありえさえすれば………ごめん。セリーナ……。」

「……セリーナ……君に、君にまた会えたら、そのときは──何があっても、必ず君を守るよ。……約束だよ……だから必ず戻ってきてくれ。。」



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



「リオン……やはり、、あなただったのね……?」



セイラの声は震えながらも、どこか懐かしさに満ちていた。


リオンがかつて遺した言葉。胸の奥にずっと残っていたものが、いま確かに重なった。



リオンはそっと目を閉じ、そして微かに唇を動かした。


「……君にまた会えたら、そのときは……何があっても、必ず君を守るよ。必ず……覚えていますか?」



セイラの瞳に、あたたかな涙があふれた。

それは、長い時を越えて届いた約束に、ようやく応えられた安堵の涙だった。



「思い出した。……だからあなたは……いつもわたしを……わたしを守ってくれていたのね。大きくなったね。」


胸の奥からあふれ出した想いが、言葉となってこぼれていく。

かつて交わした誓い。

忘れていたはずの愛し記憶と懐かしさ、いま確かにここに在ると、セイラは全身で感じていた。



リオンはそっと目を伏せ、一筋の涙が頬を伝う。


それは、ようやく報われた愛の証のように、静かに光を宿していた。




──そのときだった。




異界の門が低く唸り、音を立てて開いた。

まるで誰かを呼び寄せるように、空間にひと筋の風が走る。


そして、ひとりの影が静かに姿を現した。


「……ルシア!!」


ゼノが思わず叫んだ後に、息をのむ……


だが、ルシアは誰の目も見ようとはせず、ただ黙って“扉”へと歩を進めていく。


「ルシア!いったい何をする気だ?!」


ゼノがいくら声をかけても、歩きは止めなかった。


「もう…僕にはここにいる資格なんて…ないんです」


「兄上を……毒殺しようとした僕は……父上に逆らえず、誰も信じられず、何も知ろうともせず、ただ恐れと孤独に縛られていた……」


その声は、どこか震えていた。


「けれど……あの扉の向こうに、もう1人の自分が居る気がするんです。……僕自身すら、知らない別の自分が……」


皆の横を通り過ぎ、扉の前で立ち止まった。

セイラは思わず前へ出る。


「ルシア……あなた……まさか?」


ルシアは小さく頷いた。


「うん……セイラ……いや、姉上。ようやく気づいたんだ。さっきの母上の話を聞いていた。君が……僕と同じ母の子だったなんて……ごめんなさい。

もう……姉上を恨む理由なんて、どこにもない」


「姉上………僕にも、母上の血が流れている。

“記憶”と“毒”を巡る力。

きっと……この力が、僕の心に話しかけてくるんだ………“選ばれた運命”に従えって。姉上の代わりに行けと……。」


ルシアの声は、もう迷いもなく、今まで見せた事ない期待の眼差しで、扉に手をかざしている。


「姉上、兄上、母上……僕は、目を背けたままだった。本当の意味で、この世界に何かを残したいんだ。……姉上が背負ってきた真実を、次は僕が受け継ぐ番なんだよ」


「ルシア! 私も悪かった……父上の闇に気づけず、すべて弟のお前に、責任や重さを背負わせている……すまない。」


ゼノが声を張る。

「私にはルシアもまた!必要な、大事な家族なんだ。責任を1人で背負うことはない。私もいる。どこかに、扉を閉める方法が他にもあるかもしれない。……」


だが、ルシアはゆるやかに首を振った。


「……ありがとう、兄上。でも兄上には愛する人が……。この世界に、いるではありませんか。僕は“毒の闇”をこの手で確かめて、その先に──

愛があるのかどうかを、自分の目で見てみたい……」


「ルシア……。」


彼は振り向かず、ただ前だけを見据える。


「もし、もう一度ここに戻ってこれたなら……そのときこそ、また、兄上や母上や……父上の家族になりたいです。僕はこの家族が大好きなんです。」


セリーヌの瞳に、大きな涙が滲んだ。


「……ルシアもまた、“器”になったのですね……」


その声に、ルシアは静かに微笑んだ。

そして、何も言わずに異界の扉の中へと消えていく。


──その瞬間、扉は音もなく、静かに閉ざされた。

まるで、永い夜が深く降りるかのように。


セイラが、小さく呟いた。

その肩に、セリーヌの手がそっと添えられる。


「大丈夫……。あの子の中にも、女神の血が流れている。……だからきっと、帰ってきます。あなたが戻ってきたように。あなたと同じように。

“愛する人”を見つけて、人は闇を越えられるのです──」




──そして、異界の門が閉ざされたその瞬間。

この世界に広がっていた“毒”の気配が、いっきに消え去った。


まるで、すべての闇をルシアひとりが引き受けるかのように。


ルシアは“毒”を抱き、静かに異界へと旅立ったのだ。


その変化は、王国全土に穏やかに波紋を広げた。

大地には緑が芽吹き、人々の表情にも安堵が広がっていく。

あの日から始まった歪みの連鎖が、ようやく終わりを迎えたのだった。




風が吹き抜ける……。

静寂の中に芽吹いた、新しい光の気配。


それは、“また会える”という約束のように、

アルセイラの空へと、静かに昇っていった。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



ここまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました。

セイラの目を通して描いた“異世界と現代の交差する物語”は、この12話でひとつの区切りとなります。

けれど、彼女たちの物語はこれからも続いていきます。


まだ見ぬ再会、未来に託された希望、そして“また会える”という約束――

それらすべてを胸に、次はエピローグでお会いしましょう。


スピンオフや番外編なども考えていますので、ぜひまた覗きに来ていただけると嬉しいです。


未熟なので、矛盾があるかもしれませんが

見ていただきありがとうございました。

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